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虐待された父を追う毛沢東チルドレン

 習近平のケースは、まさにこれに当てはまる。彼にとって毛沢東こそが「虐待する父」なのだ。

 これは習近平だけではない。たとえば習近平のライバルとされ、後に汚職とスキャンダルで失脚した薄熙来(はくきらい[元重慶市党委員会書記])だ。彼の父、薄一波(はくいっぱ)も国務院副総理を務めた中共八大元老(編集部注:1980年代から90年代にかけて党の最高指導部を凌ぐ権威を持っていた集団)の一人だったが、やはり文革で失脚、母は自殺し、自身も中学卒業後に5年近い監獄生活を送っている。それにもかかわらず、薄熙来は、革命歌を歌わせたり、「腐敗幹部」狩りを行ったりするなど、文革を彷彿とさせる大衆動員の手法で、重慶に「王国」を築き上げたのである。

 習近平も薄熙来も「父なる毛沢東=共産党」に許され、幹部への道を進んだ。虐待された父から、お前の態度は正しいと認められたのである。それが彼ら“毛沢東チルドレン”の「毛沢東が行っていた以上に、毛沢東的な政治を目指そう」という行動となってあらわれているのだ。

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漢民族への同化を強いる民族政策

 そうした習近平の性格を端的にあらわしている一例が、前にも触れた理不尽な民族政策である。たしかに毛沢東の時代にも、民族弾圧は行われた。特にチベット、モンゴルなどでは指導者たちを中心に、多くの人が命を失ってもいる(文革では多くの漢民族も迫害され命を落とした)。しかし、いま習近平は、チベット人、モンゴル人、ウイグル人というアイデンティティを完全に剥奪し、漢民族に同化させようとしている。これは毛沢東さえやらなかったことだ。

 たとえば毛沢東はウイグル人たちがウイグル語を話すことを禁じようとはしていない。チベットにしても、寺院は徹底的に破壊されたが、その住民を漢民族にしてしまおう、とは考えていなかった。それは彼がスターリンの民族理論を下敷きにしていたからだ。ソ連では、ロシア革命に際して諸民族の指導者たちが大きな貢献をしたこともあり、共和国や自治区といった形で、民族のアイデンティティは尊重する、しかしその上に共産党がありソ連政府がある、といった統治を行っていた。つまり、中身が共産主義なら、器はそれぞれの民族のままでよい、というわけだ。