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父は16年間の投獄、姉は餓死…文化大革命で苦痛を味わった“習近平”がそれでも“毛沢東”の背中を追う異常な理由

『ラストエンペラー習近平』より #1

source : 文春新書

genre : ニュース, 国際, 政治, 歴史

note

毛沢東より極端な政策

 だが現在の習近平の共産党は、ウイグル、モンゴルなどに大量の漢民族を送り込み、漢民族の土地にしてしまおうとしている。さらには遊牧民的な生活を完全につくりかえ、中国の産業に貢献するような人間に仕立て上げるのだ。ウイグル語やモンゴル語の教育を禁止することは、民族の根を断つことである。そして、それに従わないと北京が判断したウイグルの人々は、片っ端から収容所に送り込んでいるのだ。そこまでのことは、文革期の毛沢東でも行わなかった。まさに習近平は、毛沢東よりも極端に毛沢東主義的な政策を行おうとしているのである。

 そう考えると、私が「チャイナ4.0」と呼ぶ、極端な対外強硬路線も理解できるだろう。中国は今、習近平という非常に破壊的な人格を持つリーダーによって、政策が決定されているのである。

 民族問題について私から習近平にアドバイスがあるとしたら、それは、「中国東北部に人を派遣して、満州族を探してくる」というものだ。ウイグル、モンゴル、チベットを帝国のメンバーに組み入れたのは、清をつくった満州族だったからだ。漢民族がこれらの地域をうまく支配できたことなどない。だから漢民族への同化しか思いつかない習近平は失敗し続けているのである。

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独裁者は不安で危うい存在

 そうした習近平の破壊的な行動は、彼が独裁体制を強化するにつれて、より極端になっている。それは二つの次元で進行している。

 ひとつはシンプルに、誰も習近平のやることに反対できない、ということだ。こちらのほうはわかりやすい。習近平に異を唱える人物はいなくなるか、いつ排除されるかわからないという恐怖で沈黙させられているのだ。

 もうひとつは、独裁体制というものは実はきわめて不安定なシステムであり、独裁者とは不安で危うい存在だということだ。

 私が習近平に対して、人間として哀れみを感じるのは、彼がいかに強力な独裁者であっても、毎晩、眠りについたあと、翌朝、無事に起きられるという保証のない状態に置かれ続けているという点だ。彼は誰かを怒らせるか、逃げ場のないほど恐怖させてしまい、夜に暗殺者を送りこまれるかもしれない。「臣下たち」が結託し、いきなり拘束されて罪の自白を強制されるという可能性もある。

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