「あっ、カメラさん、牧選手の表情アップにしてください」

 初球のストレートをファールにした牧選手の表情がアップで映し出される。その表情から、狙い通りのボールをミスショットしてしまった悔しさや、思いのほか強いボールに差し込まれ、少し驚いている様子などを見ることができる。

 牧選手は、プレー中の表情が非常に豊かな選手の1人だ。野球はワンプレーごとに動きが止まるため、選手個々の表情をじっくりと見ることができる。次の1球に込める意図、想い、熱は、何よりも顔の表情、とりわけ目から滲み出る。そんな真剣勝負の感情のやりとりを自由に観ることを可能にしたのが、横浜DeNAベイスターズが昨年から実施している“オンラインハマスタ”という観戦スタイルだ。

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オンラインハマスタ ©YDB

テレビで視聴するのと全く違う“オンラインハマスタ”

 ベイスターズのファンクラブ会員向けにオンラインハマスタの観戦チケットが販売され、購入すると視聴用のURLが個別に配信される。そこには多数の視聴者が参加しており、主に実況を担当するのは、ベイスターズのスタジアムDJを務めるMC TEDDYさん、マニアすぎるベイスターズと鉄道の知識で場を盛り上げるベイスターズファンのお笑い芸人ダーリンハニー吉川さん、そして試合の解説をするベイスターズのOBという三者によるトークで視聴者をもてなしている。(ちなみに、これを書いている私は2012年までベイスターズでプレーしていたため、このOB枠で何度か解説をやらせていただきました)

 新型コロナウイルスの流行により、スポーツを含むエンターテイメント産業は壊滅的なダメージを受け、現在もなおその影響を受け続けている。従来とは違った形でスポーツの価値を届けるべく、各団体、チームが様々な工夫を凝らす中、このオンラインハマスタはベイスターズファンから一定の支持を得ているようだ。

 このオンラインハマスタ、普通にテレビで視聴するのと全く違う点が大きく3つある。

 1つ目は、解説者に向かってリアルタイムで質問を投げかけたり、「今のプレーの解説を詳しく聞きたい!」といったような玄人解説の依頼や、「この選手とのエピソードありますか?」といった普通は聞けない話まで、試合中のどのタイミングでも、チャット機能を使ってコミュニケーションを図ることができる。

 私自身が解説者として参戦した時は、「マウンドに集まった時って、何を話しているんですか?」や、「高校野球って試合中すごく声出してますけど、プロって声出すんですか?」など、確かに聞いてはみたいものの誰にどうやって聞けば良いか分からないような小ネタ質問が山のように飛んできた。

 ちなみに、マウンドに集まった時の会話は主に3パターン。投手交代の際に集まる時は、バッテリー間のサインの確認。サインは投手によって違うため、マウンド上で確認作業を行う。投手交代でなく集まるパターンは、主に投手コーチがマウンドに来るので、投手コーチからのアドバイスパターン。ここでは、「このバッターは歩かせてもいいから際どいところに攻めよう。次のバッターを含めて、どっちかでアウトを一つ取るくらいの気持ちでOK」という具体的なアドバイスから、「腕が全然振れてない。打たれてもいいんだから、小さくまとめようとするな」というメンタル面のアドバイスまで様々だ。最後は、ただ単に間を取りたいとき。特に会話に意図はなく、時間を取りたい時にマウンドに集まる。時間を取りたい理由は様々で、ピッチャーの精神状態を落ち着けたい時もあるし、急遽ブルペンで肩をつくっている投手のために時間を稼ぎたい時もある。期待しているような、「今日の夜ご飯、何食べに行く?」のような会話はない(もしかしたら私が知らないだけかも)。

 このように、視聴者からリアルタイムで直接質問が飛んでくることは、解説者としても非常に面白い体験だった。