「もうやるしかないんだから」
結衣のおむつと1日分の着替えを詰めたキャリーケースを持ち、幸子は優希と結衣を連れて寮を出て、JR川口駅行きのバスに乗った。
優希 (ため息をつく。)
幸子 「やめるならやめるって言ってよ」
優希 「バス停が遠いからため息をついただけだよ」
幸子 「じゃあ、そういうことしないで」
バスが川口駅に到着して3人で降車する。優希はバスから降りて再びため息をついた。
幸子 「言っとくけど、帰っても金ないよ」
優希 「やるって言ってんじゃん。もうやるしかないんだから」
幸子 (ふざけたように)「きゃー、怖い」
優希はその後、黙り込んだ。
続いて、祖父母宅がある西川口に向かうバスに乗り込む。
お金、お金……とだけ考えていた
西川口に着くと、達夫と和子が住む家の近くにある児童公園に向かう。公園は、かつて祖父母宅に来た時に優希や結衣がよく遊んだ場所だった。そこから優希が一人で祖父母宅に向かい、幸子と結衣は公園で優希が戻るのを待つことになっていた。
幸子 「もう戻れないかんね。本当にやれんの? 金ないからね」
優希 「分かってるよ」
幸子 「時間はどれくらいかかる?」
優希 「……1時間くらい?」
幸子 「遅い。コイツ(結衣)も居るんだから。ってか、ここまで来てできないとか、マジあり得ないかんね」
優希 「分かった」
そう答えると、優希は一人で祖父母宅へ向かった。その時の心境について裁判で弁護人に尋ねられると、優希は「殺す、殺さないの次元ではなくお金だけは持ってこないとどうしようもない。母の言うことが頭の中で何度も流れ、『お金、お金……』とだけ考えていた」と語った。
【続きを読む】「母親と妹を生き延びさせるために必要な悪だ」祖父母を刺殺した少年が犯行時に胸に抱いた“異様な考え”とは