「仕事もお金もない。こうなったのはあなたのせい」
22日の夜になるのを待ち、幸子は実家を訪れた。達夫に金を返済していないことを謝ったが、達夫からは「年金生活だから返してくれないと困る」ときつくしかられた。
幸子は最低でも5~6万は金を借りるつもりで来ていたので更に達夫に借金を頼もうとしたが、和子にキッチンに呼び出されて「お金のことで謝りに来たのだから、また後日来なさい」と言われ、夜食代の2000〜3000円をもらって実家を出た。
「3月25日頃にまた金を借りに来よう」と幸子は思っていた。しかし、頑なになっている達夫がすんなり金を貸してくれるはずがなかった。達夫と和子は孫には甘いところがあるため、自分の代わりに優希に借りに行かせることにした。
3月22日以降、幸子は優希と結衣を連れて和子からもらった金でいつものホテルに泊まり、行きつけのゲームセンターに通った。
事件前日の3月25日、幸子は優希に一人で達夫たちに金を借りに行くよう命じた(この点について、優希は「借りに行くよう」ではなく「殺害」を指示されたと主張し、証言が食い違っている)。「引っ越し代、少なくとも5〜6万円」と告げ、「仕事もお金もない。こうなったのはあなたのせい」などと強い口調で繰り返し、優希を追い込んだ。
事件前日(優希の証言より)
25日夜、ゲームセンターを出て東京都内の南千住駅方面から北千住駅に歩いて向かう途中に幸子と交わした会話について、優希はさいたま地裁の裁判員裁判で、以下のように証言している。一方、幸子は裁判で「(祖父母の)殺害を優希に指示していない」と主張しており、殺害をもちかけた以下のようなやり取りを否定した。一審さいたま地裁では幸子の主張が認められたが、二審東京高裁では一転し、優希の証言が認められた。
優希 「(塗装会社の)社長はもう貸してくれないだろうな」
幸子 「ばあちゃんも貸してくれないだろうな。でも、(祖父母宅に)家賃(として支払うため)の金がまだあるはずなんだよなあ」
優希 「そうなんだ」
幸子 「ばあちゃんたち殺しでもすれば手に入るよね」
優希 「そうだね」(冗談かと思って笑う)