17歳の少年だった優希(仮名)は、お金に困っていた母からの示唆もあり、祖父母の刺殺を実行した。少年は事件直後に逮捕されたが、彼は小学5年生から義務教育を受けられておらず、行政が居場所を把握できていない「居所不明児童」だったという。果たしてこの罪は本当は誰のものなのか……。
ここでは、同事件を丹念に取材し続けた元毎日新聞記者の山寺香氏による『誰もボクを見ていない なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか』(ポプラ社)の一部を抜粋。優希の母・幸子(仮名)、そして優希の殺害前後の様子について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
※登場人物はすべて仮名です
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「建設会社に就職が決まった」と嘘をついて
午前11時45分頃優希は、児童公園で幸子と結衣(編集部注:優希の妹。幸子が一度も産婦人科を受診せず出産し、出生届も提出されていなかった)と別れ、祖父母が住むアパートに向かった。祖父母宅に到着後の出来事について、優希は一審の公判などで次のような内容の証言をした。
幸子はこれまでに何度も達夫(編集部注:優希の祖父)から借金を繰り返して返済していなかった。この頃は実家に行っても玄関のチェーン越しに会話するだけで、なかなか家に上げてもらえなかった。そのため、家に上げてもらうには「建設会社への就職が決まった」という口実が必要だった。
建設会社に就職が決まったと言うと、達夫は自宅に上げてくれた。あらかじめ用意していったその会社に関する嘘の話をし、優希は達夫から渡された紙に、幸子がこういう時のためにあらかじめ調べておいた会社の連絡先を記入した。
幸子から祖父母を殺害して金を奪うよう指示されていたものの、優希は最初、何とかして殺さずに、金を借りようと試みた。就職のために「引っ越し代が必要だ」と借金の話を切り出すと、達夫は「また金の話か」と怒りだし、優希の頬を平手で殴るなどした。そして、「あの女(幸子)にも言っておけ」と言った。
「母親と妹を生き延びさせるために必要な悪」
借金を拒絶された優希は、金を得るためにはどうすべきかを考える時間を稼ぐため、トイレに入った。そこで、金が借りられないことを自分の中で再確認し、「何とかしなきゃ」と必死に考えた。2人を殺して金を持ってこいという幸子の意図に反し、「自分勝手に借りようとしたからこんなことになったのか」と自分を責めもした。結局、幸子の言葉が頭から離れず、「やっぱり殺すしかない」という結論に至った。
トイレに長時間入っていると達夫に怪しまれることを警戒し、急いで居間に戻った優希は、達夫に「もうお金の話はしない」と伝え、しばらく仕事についての会話を交わした。
その後のことで頭がいっぱいになり、どんな話をしたかは覚えていない。頭の中では、達夫と和子を殺すのは「母親と妹を生き延びさせるために必要な悪だ」と自分に言い聞かせて、これからしようとしていることを正当化しようとした。同時に、どうやって殺害するかの計画を練った。