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「泣けなくて、いまひとりぼっちのあなたへ…」

 ホテルにチェックインすると、幸子が祖父母宅から盗んだもののことを聞いてきた。普段からまとまった金は幸子が管理しており持ち慣れていなかったため、優希は幸子に金を渡した。ホテルの隣にパチンコ店があったので、一人になりたくて「パチンコに行きたい」と言うと、幸子から「試していないカードがあるから、先にやってきて」とキャッシュカードを渡された。近くのコンビニのATMでカードを使って1万円を下ろし、その後パチンコに行った。その間、幸子は結衣を連れて買い物に出かけ、自分の靴を購入したとみられる。

©️iStock.com

 パチンコを終えると、優希は前日に北千住の駅前の大型ビジョンで見た自殺防止の相談ダイヤルの映像を思い出し、映像と共に流れていた音楽を聴きたくなった。(この月は「自殺対策強化月間」で、駅などでは集中的にこの映像が流されていた。)

「泣きたくて でも泣けなくて いま ひとりぼっちのあなたへ」

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 ホテルに戻ってパソコンを借り、頭に残っていたサビのフレーズを、うろ覚えのままインターネットで検索し、動画サイトに投稿された音楽ビデオを探し出して再生した。ワカバという男性2人組が歌う「あかり」という曲だと分かった。歌詞は、「ちゃんと伝えたいんだ そばにいたいよ どうか どうか どうか 消えないで」と続いていた。

「自分は関係ない」と言ってくれればいい

 曲と共に映し出されたパラパラ漫画のような線画のアニメーションは、人間関係に不器用な主人公がいじめられたり裏切られたりして絶望して「殻」に閉じこもり、孤立して追い詰められていく様子が描かれていた。しかし、たまたま通りかかった人が厚い殻に覆われて周囲から見えなくなりつつあった主人公の存在に気づき、小さな穴をあけて中を照らしてくれた。殻の中にいた主人公は大粒の涙を流して殻の外に這いだし、助けてくれた人と2人で別の孤立した人を助けに行くというストーリーだ。

「もっと早くこの曲に出会いたかった」と、優希は思った。

 それからしばらくして、優希と幸子は、もしも警察に捕まった場合の、口裏合わせをした。優希は幸子に「最悪捕まるなら、自分一人で充分。幸子さん(優希は当時、母親をこう呼んでいた)は『自分は関係ない』と言ってくれればいい。そしたら結衣のことはお願いね」と言った。幸子は「そんな変なこと言うなよ」と涙ぐんだ。幸子は会話の最後に、「お前も認めるなよ」と言った。

【前編を読む】17歳の少年が祖父母を刺殺するまで…「もう戻れないかんね。本当にやれんの?」少年を犯行に追い込んだ母の“欲望”