背中を包丁で刺すと…
廊下に出て和子に声をかけ、キッチンに呼び出し、背後から延長コードで首を絞めた。首を絞めている最中に和子の手が自分の手に触れてきて、一瞬だったが、「この手と昔手をつないで歩いたな」と思った。しかし、意識を切り替え死んでもらうことだけを考え、キッチンにあった包丁を使って刺した。どうやって刺せば人が殺せるかなどという知識はなく、「包丁が深く刺されば死ぬのかな」と、幼稚なことしか考えなかった。しかし、包丁はうまく刺さらず、「コルセットを巻いているせいだ」と考え、別の細い包丁を手に取り再び刺した。その時の手の感触は今も残っている。
その後、ジャケットの内ポケットに和子を刺すのに使った1本目の包丁を入れて居間に戻り、「おばあちゃんの姿が見えない」と和子を捜すふりをしながら「おばあちゃんがキッチンで倒れてる!」と叫び、達夫をキッチンに呼び出した。長身の達夫が立っていたため延長コードは使えないと判断し、内ポケットにしまっていた包丁を取り出して達夫の背中を刺した。
達夫は優希の方を振り返り、「何しているんだ、お前」と言った。優希は何が何だか分からなくなり、過去に達夫と一緒に過ごした映像が頭に浮かんだ。達夫が口から血を吐いて倒れると、映像はそこで止まった。
自分がやったことであるにもかかわらず、「おじいちゃん家に来たらこんなになっていました」というような感覚と、それとは対照的に手に残る感触に、頭の中が真っ白になった。
何も盗らずに幸子と結衣の元へ
2人を殺害したことで頭の中が真っ白になってしまった優希は、祖父母宅から何も盗らずに幸子と結衣が待つ児童公園に戻った。その時の様子と、祖父母宅に戻って金品を奪うまでの状況について、一審で明らかになったことと、一部、優希の手記などからも引用して記す。
公園に戻ると、幸子に「震えているし、顔が白いよ」と笑われた。優希が笑えずにいると、「本当に殺してきたの?」と幸子に聞かれ、「多分」と答えた。幸子に「多分って何?」「生きていたら警察に通報されるよ」「お金は?」と矢継ぎ早に聞かれ、「持ってきてない」と答えた。
幸子に「家賃のお金はどこにあるの?」と尋ねると、幸子は「ばあちゃんの部屋の○○の所か、こたつのところの......」と、家賃が入ったかばんがありそうな場所を具体的に説明した。「カメラの入ったショーケースのカギは?」と優希が聞くと、幸子は「(達夫の)ジャンパーのポケットに入っている」と答え、更に「(和子の)金の指輪もあるんじゃない? 指か、机に置いてある」と言った。優希は、「おばあちゃんの家に誰かが電話をしたら、誰も電話に出ないことを不審に思われるのではないか」と不安になり、「電話機とかも持ってきた方がいい?」と幸子に聞いた。
幸子も一緒に祖父母宅に戻ろうとしたが、そうすると結衣も連れて行くことになる。優希は結衣に現場を見せたくなかったので、幸子を制止し一人で行くことにした。本当は自分も戻りたくはなかったが、2人が生きているかどうかを確認し、お金を何とかしなくてはならないと思った。