DVとは「殴る・蹴る」といった肉体的暴力行為に限らず、怒鳴ったり、携帯を勝手にチェックしたり、プライベートを制限したり、家計費を渡さなかったり……。さまざまな加害のあり方がある。パートナーへのちょっとした不満が、見方を変えればDV被害だったといったことも決して珍しいことではない。
ここでは、この10年間で受講者約800人の8割のDVをなおすことに成功したNPO法人「女性・人権支援センターステップ」理事長の栗原加代美氏による『DVはなおせる! 加害者・被害者は変われる』(さくら舎)の一部を抜粋。DV被害のありかたの変化を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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時代とともにDV関係も変化している
警察庁の統計によると、2012年に検挙したDV加害者の9割以上が男性でした。この結果からもわかるように「DVの加害者は男性、被害者は女性」という状況が長くつづいていました。
しかし、近年、女性も加害的になってきて、「加害者が女性、被害者が男性」というケースが増えてきています。
とくに20~40代の夫婦の関係性が変わってきているようです。男性の約半数が配偶者からのDV被害経験があるとのことです(令和3年「男女間における暴力に関する調査報告書」内閣府男女共同参画局)。
かつての「男性が外で働き、女性が家を守る」という時代には、経済的にも精神的にも女性は男性の庇護を受けて暮らしているという感覚が社会全体にあり、男性が一方的に支配権をにぎっていました。しかし、仕事を持ち経済的にも精神的にも自立した女性が増え、社会的にも男女対等の認識が高まったことで、より強いほうが相手を支配しようとする関係になってきたのだと思います。
才能の優劣で支配関係が生まれる
人間が2人いると必ず比べる行為が生まれて、優位と劣位ができ、強いほうがリーダーになろうとします。働き手が夫で妻は専業主婦という場合、夫が優位で妻が劣位になりやすいものです。しかし、夫が口ベタで妻のほうが弁が立つと、優劣が逆転して妻が加害的になります。才能が離れているとそこに優劣ができて、支配関係が生まれやすくなるのです。
何においても同じぐらいの力関係であれば、お互いに尊敬し合えて、理想的でしょう。
ただ、女性が加害者の場合、次の2つのパターンがあります。
・妻が夫に対して一方的に加害行為をしているケース
・妻から夫へのDVの背景に、言葉の暴力や精神的暴力によって妻を追い込む「隠れDV夫」が潜んでいるケース