「DVとは、力で相手を支配しようとする関係性のこと」。そう語るのは、NPO法人「女性・人権支援センター ステップ」の理事長として、不健全な価値観や考え方に気づき思考を変えていく「DV加害者更生プログラム」を実施する栗原加代美氏だ。
ここでは同氏の著書『DVはなおせる! 加害者・被害者は変われる』(さくら舎)の一部を抜粋。DV加害者が、いかに「自分は常に正しく、相手が間違っている」という歪んだ考え方を育むのか。その実情を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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DVのきっかけは、ほんの些細なこと
相手をののしったり、叩いたり、ものを投げつけたり……これだけのことをするのですから、加害者にもよほどの理由があるのではないかと思うところです。ところが、DVの発端となる出来事は、第三者からすると驚くほど些細なことだったりします。
《事例》「とんかつにソースが出ていない」がDVのきっかけに
たとえば、夕食がとんかつのときに食卓にソースが出ていないとします。妻には、「とんかつのときにはあらかじめソースを出してほしい」と頼んでいたのに、出ていない。そういうことが何回かつづいて、それでキレてしまったんです。
いま思えばくだらないことですが、「とんかつにはソース」「カレーには福神漬けとらっきょう」、こういう約束ごとが守られていないことで、「俺のいうことを聞いていない」「俺のことをバカにしている」「俺のことを愛していないんだ」という負の三段論法のような考えにおちいり、「悪いのは何度いっても約束を守らない彼女のほう、俺は正しい」となってしまったのです。
「カレーに福神漬けがついていなかった」
「とんかつにソースがかかっていなかった」
「魚を食べたかったのに肉が出た」
「リモコンを決めた位置に戻していなかった」
「帰宅したときにお帰りなさいをいわなかった」
「妻が朝ごはんをつくらなかった」
これらは実際によくある事例です。
はたから見れば「そんなことぐらいで」という出来事ばかりですが、じつは、これらの事例の背景には共通する加害者感情があります。
「自分の望んでいること(欲求)に、相手が応えてくれない(満たしてくれない)」という気持ちです。