虐待の連鎖を背負うDV妻に悩む夫
ここでは、「妻が加害者、夫が被害者」という事例を紹介します。
《事例》妻の一方的なDVに長年耐えてきたCさん
同じ職場の同僚だった妻とは、お互い両親からの虐待を受けて育ったという共通の体験があり、そのことを話し合い慰なぐさめ合ううちに自然にひかれ合っていきました。二人とも暴力的な家庭の不幸を知っているので、「結婚したら絶対に平和でおだやかな家庭をつくろう」と誓い合って結婚しました。
けれど、結婚してすぐに妻の暴力がはじまりました。私はどちらかというと動作が緩慢なタイプで妻もそのことを知っているはずなのに、彼女の思うように私が動けないと「なんでもっと早くできないの!」「どうしてこんなこともできないの!」「あなた男でしょう!」と怒鳴るのです。それもひとことで終わるのならまだしも、何時間もずーっと罵詈雑言を浴びせつづけます。
妻は両親が離婚したあと母親に引き取られたのですが、その母親が自分の思いどおりにならないとすぐ怒鳴る人だったそうです。「気にいらないことがあれば怒鳴る」という母親のやり方しか彼女は知らないので、私のことで気にいらないことがあると、母親が自分にしたのと同じことを私に対してしてしまうのだと思います。
私がおだやかな家庭に育ったのであれば、そんな妻を優しく包み込むこともできたかもしれません。ですが、私自身、親からの虐待を受けて育ったので、怒鳴り声を聞くと子どもの頃の恐怖がよみがえって身体が震え、とてもいい返すことなどできません。
それでも彼女のことを好きという気持ちに変わりはなく、また、「自分がトロいから彼女を怒らせてしまうんだ」という思いもあり、ひたすら我慢をしていました。
やがて娘ができたのですが、妻は娘に対しても怒鳴るようになりました。怒りのスイッチが入ると手がつけられないので、私も止められませんでした。ただ娘は私と違って、いわれたらやり返すことができたので、私ほどトラウマ(心的外傷)にはならなかったようです。
しかし、私は長年にわたって妻の暴言にさらされつづけたことで、不安神経症を発症してしまいました。妻のことを考えただけで息苦しくなったり、ハアハアと過呼吸状態になったりするようになりました。これ以上はもう妻とは一緒にいられないと感じ、家を出ました。
その後、ネットでDVのことを調べ、ステップのことを知りました。もし妻が加害者更生プログラムに通ってDVをなおすなら、家に戻ります
DV加害者には他人とはうまく付き合えるという人も少なくないのですが、Cさんの妻の場合は外での人間関係もうまくいっていません。誰ともうまくいかないから、せめて夫や娘には「自分の思いどおりになってほしい」とよけい期待をしてしまうのです。