スランプを経て月間10本塁打を記録した村田選手
さて、このように最高のスタートを切った二人でしたが、その後の歩みは少々異なるものとなりました。
6月以降も順調に本塁打を積み重ねていった佐藤選手に対して、村田選手は6月半ばあたりからスランプに陥り、結局、7月半ばから約1カ月、二軍での調整を余儀なくされたのです。
しかし、二軍調整中に感覚を取り戻した村田選手は、一軍に復帰すると9月にはやはり新人記録となる月間10本塁打を積み上げ、シーズン終了時には25本塁打を記録。最終盤にケガをしたこともあり新人王こそジャイアンツの木佐貫洋投手に譲りましたが、新人としては十二分のインパクトを残したのです。
だからこそ、佐藤選手のファーム行きは吉兆ではないかと、心の中の女将が私にささやくのです。オリンピックによる中断のため10月末まで試合のある今シーズンだけに、もし9月中に佐藤選手が戻ってきて村田選手ばりの復活を遂げれば、新人ホームラン記録の31本も十分射程圏内だと思うのです。
佐藤輝明、村田修一、そして牧秀悟の「三位一体」
今年の優勝がほぼ絶望的になっているベイスターズのファンにとって、唯一の希望ともいえるのが、牧秀悟選手の新人王争いです。
後半戦で調子を落としていった佐藤選手と対照的に、牧選手はコンスタントに活躍を続け、8月25日には新人として公式戦初のサイクルヒットを達成するなど、話題性も十分です。その意味でライバルである佐藤選手の脱落は朗報……といえなくはありません。
しかし、試合前に声をかけあうなど仲が良く、お互いをライバルとして認めている牧選手と佐藤選手。新人王争いも最後まで競ってほしい、という思いがあります。
何の因果か、牧選手の応援歌はベイスターズ時代の村田選手の応援歌を流用したものです。だから私の頭の中には牧選手と佐藤選手、そして村田選手が三角関係……ではなくて、とにかく一体として感じられるのです。
活躍する二人の姿を空から村田選手が見守るイメージでしょうか。夕日に浮かび上がる村田選手の顔、そこに重なる「本当の闘いはこれからだ」というメッセージ……。
これだとまるで打ち切り漫画のラストシーンですが、実際には二人のライバル関係は10年、20年と続いていくと確信しています。
村田選手の同世代にはあの松坂大輔投手をはじめ優秀な選手が多く、「松坂世代」として互いに切磋琢磨してきました。牧選手、佐藤選手の世代にも山本由伸投手をはじめ優秀な人材が目白押しです。彼らが一時代を築き上げ、そして最後には松坂選手と村田選手のように「伊右衛門」のCMに出演して、誰が誰に対してかはわかりませんが、「オマエハ、オレラセダイノ、ホコリダカラヨ」と棒読みで言ってくれるに違いない。そんな光景すら今から目に浮かびます。
今後10年続く「ライバル物語」の第一章として
だからこそ佐藤選手には、ファームで感覚を取り戻してほしい。そしてぜひ牧選手と新人王争いを最後まで繰り広げてほしい。それは熾烈な最下位脱出争いを繰り広げるベイスターズにとってはマイナスでしかないのですが、それでも、心からそう思います。
村田選手は二軍落ちを味わったルーキーイヤーを振り返り、ファームで考える時間を十分に持てたことと、テレビで一軍の試合を見ながら試行錯誤することができたことが、その後に生きたと語っています。
そして実際、前述したように一軍復帰後には1カ月で10本塁打を記録。そして入団5年目にはついに本塁打王を獲得。球界を代表するスラッガーとして一時代を築き上げました。
佐藤選手もきっと、開幕からの嵐のような日々で自分を見直す時間をとれていなかったはず。もともと、その豪快な印象に反して考え込むタイプの佐藤選手ですから、二軍調整期間はきっと自分を見直し、さらなる飛躍を遂げるいい機会になると思います。
まぁ、そして最後にはカープの栗林良吏投手に新人王をかっさらわれる、というオチも見えなくはないのですが……。それもまた「佐藤・牧物語」のオープニングとして、格好の彩りのような気もします。
まだまだ30試合以上残しているペナントレース。佐藤選手があのときの村田選手のように大復活を遂げるのか。牧選手とのライバル物語は今後、どうなっていくのか。楽しみに見守っていきたいと思います。
そして、個人的には村田さんが今後、どんなセカンドキャリアを歩んでいくのか――ベイスターズ復帰もワンチャンあったりするのか?――についても、固唾をのんで見守っていきたいと思います。
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