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看護師への暴行・殺害、自警団からのリンチ…荒れていた終戦直後

 読売の同じ紙面では、東京裁判(極東国際軍事裁判)で、日本軍のビルマ作戦中の捕虜の取り扱いが取り上げられ、A級戦犯で巣鴨プリズンに収容中の東条英機・元首相がアメリカ軍MPからタバコに火をつけてもらっている写真が載っている。

 東京・両国の焼け跡で若い看護師が暴行・殺害されたり、静岡県で食糧欲しさに畑に“野荒らし”に入った男が自警団からリンチを受けりした事件の記事もある。大財閥の令嬢誘拐といっても、そんな荒れ果てた世相の一点景だった。毎日は2段の扱いだった。

立てられた捜査方針は…

「神奈川県警察史 下巻」には、鎌倉署に設置された捜査本部が捜査開始日の9月18日に立てた捜査方針が載っている。

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1、犯行は計画的

2、財閥の令嬢に着眼した点から推して、犯行の目的は金銭の喝取

3、校名を以前の名称である「乃木学校」と言い、住友家令嬢を級長かとただしていることからして、彼女の級長当時(敗戦前)を知る級友に面識がある

4、犯人は「常習的前科者」と思われる。右目の下のほくろなどの特徴から、手口で犯人を割り出す

5、犯人の足どりを追う

6、犯人と被害者が腰越、七里ケ浜、稲村ケ崎を通って鎌倉に向かう姿を見かけた者がいる。これから推して、鎌倉駅から県外へ逃走したものと思われる

住友令嬢の無事を祈る学友たち(「画報現代史 戦後の世界と日本第2集」より)

「犯人は復員軍人ではないかとみられる」

 翌9月20日付朝日には2段で「恨みからか」の記事が。「犯行後3日目の19日に至っても、犯人から何らの意思表示がないところをみると、身代金欲しさの犯行ではなく、住友家の家庭ないし雇用関係などからした怨恨ではないかと思われる点が強くなった」。

 さらに「復員軍人風(ふう)」の小見出しで次のような記事が。「連れ出した男について学童たちの報告を総合すると、次のような新事実が出てきた。男の着ていた軍服は兵用のよれよれになった古服で、石炭酸の香りがしていたこと、口の周りに吹き出物が出ていたなど、犯人は最近の復員軍人ではないかとみられる」。