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『科捜研の女』が大きな転機に 沢口靖子(56)が駆け出し時代に抱えていた“苦悩”「容姿といった表面的なことだけでしか…」

2021/09/10
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 そんなふうに闇雲にやってきた彼女に俳優としての自覚が芽生え始めたのは、30代に入ってからだという。NHKの大河ドラマ『秀吉』(1996年)では、豊臣秀吉の正室・おねを、やきもちも焼けばドジもする人間臭い人物として演じた。それまで“正統派のお嬢さん”のイメージが強く、時代劇でもその手のお姫様を演じることが多かった彼女だが、これを機に周囲からコメディもできると認知されるようになっていく。この延長で、2000年より5年間出演した金鳥「タンスにゴン」のCMでは、ひな人形や政治家などさまざまなキャラクターに扮しながら関西弁で本音をまくしたて、従来のイメージを覆す。

「マリコの魅力は、沢口さんの魅力と重なる」

『科捜研の女』がスタートしたのは沢口靖子にとってそういう時期であった。このシリーズによって沢口の演技の幅がさらに広がり、俳優として魅力を増したことは間違いない。制作側もそれを活かすべく、マリコに時折コスプレをさせたり意外な行動をとらせるなどして、物語の面白さを追究する。シーズン9より監督として参加し、今回の劇場版も手がけた兼﨑涼介は、《マリコの魅力は、沢口さんの魅力と重なりますね。どこか浮世離れしていて、ちょっとしたアイテムで面白くなる。いい意味で壊しやすい。新選組やお姫様の格好になったり、普通なら「なんで?」と思われそうなことでも、なぜかマッチしてしまうのは、沢口さんだからこそ》と語っている(※2)。

『科捜研の女』(2009年) 番組公式サイトより

 マリコのキャラクターもシーズンを重ねるに従い、徐々に変わっている。スタートしたころは部屋を片づけられなかったり、運転免許がなかなか取れなかったりと、私生活ではダメダメな面が強調されていた。ただ、捜査に関して必要とあれば体を張ることもいとわない点など、現在まで一貫しているところもある。

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 初期の『科捜研の女』ではまた、科学捜査で真相を追究するマリコに対して、長年培った勘を頼りに捜査を進めるベテラン刑事・木場(小林稔侍)の存在がコントラストを成していた。だが、マリコはしだいに木場の人間性に惹かれていく。いまでは、当の彼女がかつての木場と同じく情のある人へとシフトしてきている。ほかにも、殉職した木場に替わってマリコと長らくコンビを組む刑事の土門(内藤剛志)が、彼女をある時期から「おまえ」と呼ぶようになったりと、長く続くシリーズだけに、さまざまな場面で個人や人間関係の変化が見てとれるのが面白い。