役を演じているあいだは、思考回路や感性までその人物になりきるタイプだとも述べている(※2)。そのためには台本を読み込む以外にも努力を惜しまない。『JIN―仁―』で坂本龍馬を演じるにあたっては、土佐弁を体得するため何度も高知に行った。滞在中には居酒屋にも通ったという。彼にとって居酒屋は、その土地に生きている人たちのことが一番わかる場所らしい。
ジャーナリスト志望から俳優の道へ
映画『家路』(久保田直監督、2014年)で、福島第一原子力発電所の事故により故郷を追われた農家の長男を演じた際にも、撮影2週間前から福島に入り、毎晩のように居酒屋に出かけては地元の人たちと膝を交えた。現地でランニングしている最中に出会ったおじいさんは、一緒に飲みに行ったところ、家族は仮設住宅で暮らしているけれど、自分は長男だからおいそれと先祖代々の土地を放り出すわけにはいかないことを訥々と話してくれたという(※2)。地元の人から話を聞けば聞くほど、閉塞感が伝わってきて、演じる男を少しずつ自分のなかに取り込んでいったような気がすると、撮影後に内野は振り返っている(※6)。
『家路』は、登場人物と同じ境遇に置かれた人たちが現実にもいまなお存在し、撮影でも実際の仮設住宅を使わせてもらって、住んでいる人たちを感じながら演技をしたので、《頭の中では「フィクションと思うなよ」といった言葉が常に巡っていたような気がします》という(※7)。それだけにやや特別な作品といえる。それでも、時代劇映画『あかね空』(浜本正機監督、2007年)で豆腐職人を演じるにあたっても、実際に京都の豆腐屋で豆腐づくりの全工程を見せてもらい、職人から苦労話や心構えを聞かせてもらうなど(※8)、作品ごとに役づくりのため取材には余念がない。
かつて《自分の目で物を見たいとジャーナリスト志望でしたが、人間を外から見るより自分の内側であばれたいと俳優の道を選びました》(※9)と話していた内野だが、俳優としてキャリアを重ねるうちに、ときに人間を外からじっくり見て、自分のなかに取り込んでいく術も身につけていった。彼の演じる人物が、ことごとく説得力を持つのは、そうしたジャーナリスティックな裏づけがあってこそともいえるかもしれない。
※1 『日経ウーマン』2016年1月号
※2 『婦人公論』2014年3月7日号
※3 『週刊朝日』2015年10月16日号
※4 『週刊ポスト』2018年3月16日号
※5 『ザテレビジョン』2019年4月12日号
※6 Precious編集部・編『硬派の肖像――ぶれない男、31人の人生訓』(小学館、2019年)
※7 『AERA』2014年3月10日号
※8 『婦人公論』2007年4月7日号
※9 『悲劇喜劇』1999年8月号