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 住民からの謝意はごみ袋に貼付されたメッセージやメモのみならず、マスクの入手が困難であった時期には、手製のマスクやフェイスシールド、新品の不織布マスクが贈られる場合もあった。さらには区議会議員からも手作りの紙マスクが贈られるケースもあった。感謝のメッセージやマスク等を受け取れば清掃事務所に持ち帰り、事務所にて掲示したり地方自治体の広報誌で取り上げたりした。

 コロナウイルスが蔓延する中で自宅から排出されるごみの中には、自宅待機する感染者が排出したかもしれない使用済みマスク、ティッシュ等も含まれている可能性があり、感染者が触った袋を清掃車に積み込む作業はリスクが高くなった。特に初回の緊急事態宣言が発出された時期には、清掃従事者はこのような感染リスクが高い作業を緊張感を持って行っていたので、ごみ袋に貼られた謝意を表するメッセージやメモにより、幅広い層の住民からの感謝や応援を実感でき、ひと時の安堵や安らぎを得た。

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清掃従事者への差別

 ごみ袋に貼付された住民からの謝意は初回の緊急事態宣言が解除されてからは多くは見受けられなくなったが、これまで日陰に追いやられ、世間から心無い言葉を浴びせられてきた清掃従事者にとっては、希望の光であった。それだけ清掃従事者はいわれない差別を受け続けてきたのである。

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 清掃における差別は様々な局面で現れるが、類型を整理しておくと、(1)住民による清掃従事者への差別、(2)清掃従事者間における差別(清掃職員と雇上会社[編集部注:東京23区の清掃事業の業務請負を目的とした業者。23区と東京都で「過去の実績を踏まえて業者を選定する」という覚書が結ばれており、その覚書に基づいて、ごみ収集請負契約の相手が定められているため、新規事業者が参入できない構造となっている]従業員間、清掃職員と車付雇上[編集部注:臨時ごみなどが出る場合に限った臨時的請負契約の形態だが、現状は正規職員の退職不補充の穴埋め対策として恒常的に活用されるようになり、非正規雇用が前提となっている労働環境が問題視されている]労働者間での差別)、(3)地方自治体内での現業軽視といった差別、に分けられるであろう。

 とりわけ(1)については住民と清掃職員との関係の観点から詳しく述べておきたい。

 (1)の典型的な形が住民から清掃従事者に浴びせられる暴言の数々である。押田氏(編集部注:44年間東京23区の清掃事業に従事し、清掃差別と闘ってきた元清掃職員。現在は清掃・人権交流会長を務める)が清掃職員になったのは1972年であるが、その頃は現在よりも清掃従事者への差別はひどく、作業中に「くさいくさい」と鼻をつまんで子どもや女性が走り去るのを何度も経験した。中には仕事をしている最中に子どもが寄ってきて「おじさんよくこんな仕事をしていられるね」「おじさんたちはどこで寝ているの」と言われたこともあった。さらには当時の同僚が小学校の傍で収集作業をしていると、2階の窓から見下ろしていた教諭が児童たちに向かい、「お前ら勉強しないとああなるぞ」と言われたこともあった。最近でも同種の暴言は存在し、未分別のごみを排出して収集されなかった腹いせに、「だまって もってけ 糞ゴミ屋」とごみ袋にペンで書き集積所に投げ捨てられていた事例もある。これらはほんの一例であるが、清掃労働者はこれまで「臭い」「汚い」「捨てたものを扱う価値のない仕事」と世間から蔑まれてきた。臭く汚いのは排出されたごみそのもの(*2)であるにもかかわらずである。

*2 排出者がごみの水分を切りしっかりとビニール袋で包めば、臭いや汚さは和らぐ。排出者が少し工夫をすれば清掃従事者のいわれない差別はなくなっていく。