人の目を惹きつけるため、北斗は目に入るすべてにこだわった。
「お給料は全部コスチュームに使う。大きな場所では同じものは二度と着ませんでした。北斗晶は今回どんな衣装で出てくるんだろうというのも楽しみのひとつになっていたと思います。両国、武道館、横浜アリーナ、文体(横浜文化体育館)、毎回違うものを一式揃えて。新しいコスチュームで出た瞬間、お客さんがウワーッてなるんです」
客を惹きつけるのは、必殺技を出す瞬間ではない
着物を模したガウンを羽織り、連獅子で歌舞伎役者が被るようなかつらで頭を、夜叉の面で顔を隠した北斗が花道を歩く姿は圧巻だ。
「コールが終わって、リングの上で初めて北斗晶の姿がお客さんの前に現れることを常に心掛けました。自分より前にある後輩の試合を、舞台裏から観たりもしない。本番前に私の姿が見えてしまったら、お客さんの興奮が変わるから。技を考えないわけではないんですけど、それよりも扉を開ける瞬間からのことを考えていましたね。試合はそこから始まってるから」
一概には言えないが、脇役としての正しい振る舞いを求められがちな女性にとって、人の目を惹きつける自己プロデュースは苦手分野に入ることではないだろうか。
「大切なのは、つかむ瞬間です。鉄板の笑い話にもつかみどころってありますよね。どんな話にも強弱があって、声を大きくすればいいってことではない。じゃあリングの上でお客さんの心を一気につかむのはどこなのかといったら、私の必殺技だったノーザンライトボムを出す瞬間ではないんですよ。出す前なんです。『ノーザンライトボム行くぞ~』ってアピールした瞬間。
そこで会場がウワーッて興奮して、技がきまらなかったらお客さんは落胆する。ガンと掛けた時が、勝ったぞとお客さんが確信する瞬間。一番沸くのは、必殺技を掛けると私が会場にアピールした瞬間。次が落とした瞬間。最後がワン・ツー・スリーが入った瞬間。この3つが重なった時、最高のボルテージが来る。つかみどころをいつも考えていたんじゃないかな、プロレス時代は」