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「砂や小石を投げられたり、オシッコをひっかけられたことも」稀代のプロレスラー・北斗晶、知られざる“メキシコ時代”の苦労

彼女がそこにいる理由――ジェーン・スー

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「はじめまして、私の名前は北斗晶です、のあと『パパシート エスタスビエンクワントス』と言えって。日本語に訳すと『色男、おまえ何回できるんだ』っていう意味(笑)。それを『よろしくお願いします』だと教えられて。社長が大笑いしてくれたからよかったんですけど、あとからわかった時に、こいつら舐めやがってと。

 あとは、溶け込みたかった。ここで花を咲かせたいなら、場に慣れなければいけない。そういう全部が私をジョン万次郎に変えました」

リングが見えづらい会場で、「自分を魅せる」ためにやったこと

 なんの期待もなかったメキシコ遠征で、北斗はスペイン語だけでなく、自分を魅せる術を学んだ。

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 構造上、メキシコの試合会場は上方の席からリングが見えづらい。

「一番上の人たちにも私のやってることを知ってもらいたかった。爪でひっかいてるのか、口で噛んでるのか遠くからでもわかるように、爪も唇も黒く塗りました。一番相手にしなきゃいけないのは、特別リングサイドの席を買ってくれる人ではないんです。お金がなくても観に来てくれた、会場の一番上にいる人。

 その人たちが面白かったと思えば、次は3000円の席を5000円にしてくれる。5000円の席を7000円にして、いつかは1万5000円の席で観たいと思ってくれる。でもなにをやっているか分かんなかったら、面白くないという印象のまま帰ってしまう」

 帰国後、北斗は日本でもヒールターン(悪役転向)し、めきめきと頭角を現した。SNSの現代と異なり、ヒールにはカミソリの入った手紙が送られてくる時代だ。

『週刊文春WOMAN vol.11(2021年 秋号)』

「悪役という言い方はあんまり好きじゃないんで、ヒールレスラーと言っています。人気選手を痛めつけるんですから、嫌なこともありました。メキシコでは砂や小石を投げられたり、紙コップに入ったビールをかけられたこともあれば、カップにおしっこを入れてひっかけられたことも。

 でも、自分で選んた道だから言えますけど、悪党って得なんですよ。おっかない北斗晶が『あ、ハンカチ落ちましたよ』って言ったら、結構いいヤツだよってなりますよね(笑)」