駄目だ駄目だ、それだけは勘弁してくれ
ところがそのとき予想もしなかったことが起きた。犬が突然、私の背後に近づいたかと思うと、まだ完全にブツを出し切っていない私の肛門に鼻面を近づけ、もうたまらないといった様子で穴から出てくる糞をばくばくと食い出したのだ。それどころか、私が糞を出しきると、まだ全然物足りないといった様子で、あろうことか私の菊門を慈愛に満ちたテクニカルな舌技でぺろぺろと舐めだしたのである。
あふっ。
思わず口からはしたない声が漏れた。予想外の犬の行動に狼狽し、かつぞくぞくした私は、その刹那、この品のない振る舞いをそのまま続行させるべきかどうか、迷った。
しかし反射的に背徳感というか、私という人間の内側にこびりつく近代人としてのつまらぬモラルが顔をのぞかせ、「おい、やめろ。そんなことをしたら、駄目だ。向こう行ってろ」と手で追っ払った。犬はまだ不満な様子で、なお必死に菊門に舌を伸ばそうとするが、私は片手で犬を抑えつけて、駄目だ駄目だ、それだけは勘弁してくれと抵抗した。
闇夜の中、ひそかに私の尻のまわりでは数センチレベルの攻防戦が展開された。
尻を拭き終わってから私は少し後悔した。肝心なところで近代人のモラルに邪魔されたが、あのまま犬を自由にさせたら、もしかしたら私と犬は3万年の時空を超えて、クロマニヨン人が狼犬を手なずけたあの瞬間に立ちもどることができたかもしれない。
翌日も私はあえて外に出て犬の目の前でこれ見よがしに脱糞してみたが、犬はもはや無反応だった。これまで私はこの犬を厳しく躾けてきたので、私が一度禁じたことを二度と繰りかえさない習性になっていたのである。
【後編】暗闇に閉ざされた極夜と超人気キャバ嬢のやり口が重なるワケ「私は基本的にアフターには応じない。どうして今日は来ちゃったのかなぁ~」