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暗闇に閉ざされた極夜と超人気キャバ嬢のやり口が重なるワケ「私は基本的にアフターには応じない。どうして今日は来ちゃったのかなぁ~」

『極夜行』より#2

2021/10/09

source : 文春文庫

genre : ライフ, スポーツ, ライフスタイル, , 働き方, 読書

note

月のやり口はまるで夜の店の女と同じ

 この地球外惑星のような幻想的な世界は実際、幻なのだ。調子よく世界が開けている感じに見えるから、ついつい気持ちよく先に進んできてしまったが、実際に近づいてみるとそれらは偽物ばかり、ウソばっかりじゃないか。

 月のやり口はまるで夜の店の女と同じだった。さらに具体的にいえば、私が10年前に通った群馬県太田市のクラブOのナンバーワン・キャストAと同じだった。

 10年前 ―。当時の私は太田市と県境を挟んだ埼玉県熊谷市で新聞記者をしていた。

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 ある日、たまたま前任地で仲の良かった別の会社の新聞記者が太田市に赴任していたので、2人で飲む約束をした。友人はすぐに酔いつぶれたので私は彼を家に送ったが、まだ飲み足りなかったため駅前をぶらつき何の気なしにそのクラブOという店に入った。

 1時間ほど飲んだところでそろそろ閉店が近くなり店を出ようと思ったときに、店側が放ってきた刺客がAだった。

 おそらく最後にAと飲ませることで、私をカモにしようというのが店側の魂胆だったのだろう。その証拠にAは凄まじい美貌と色気の持ち主だった。目元は妖しげで唇は熱情的、まるで上戸彩と井上和香を足して二で割らなかったような容貌をしていた。身体つきも、ほっそりとしているくせに胸はむしゃぶりつきたくなるほど豊満で、推定Gカップ。要するに男の欲望をすべて具現化した女族最終兵器のごとき女、それがAだった。

 隣に座ったAと最後の10分間会話をしただけで、私は彼女の全身からにおいたつ芳香に眩暈(めまい)をおこした。当然のごとく何日か後にまたすぐさまクラブOに行き、Aを指名した。

©iStock.com

 しかしAは超人気嬢なので、指名してもテーブルで話ができるのは1時間でわずか5分ほど、そこで駄目元でアフターに誘ったところ奇跡的にAからOKが出た。

 深夜の太田駅前を歩きながら、彼女はこんなことを言った。

「今日は指名が27本だった。いろんな人からアフターの誘いを受けたけど、私は基本的にアフターには応じない。だけど、どうして今日は来ちゃったのかなぁ~」