「内部通報の犯人を捜す」「絶対に潰す」──全国郵便局長会の隠蔽体質と政治力に迫る。(「文藝春秋」2021年10月号より)
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相次ぐ郵便局長による不祥事
詐欺、収賄、横領、経費の不正請求……。郵政創業150年という記念すべき年に、郵便局長による不祥事が相次いで発覚している。
日本郵政グループは一昨年のかんぽ生命保険の不正販売問題、昨年のゆうちょ銀行の不正引き出し問題によって信頼を失墜させてきたが、今度は郵便局長たちがダメを押してコンプライアンスや企業ガバナンスの欠如を露呈させている。
長崎県では、多数の顧客から20年以上にわたり、12億円超をだまし取っていた60代の元郵便局長が6月14日に逮捕された。同月29日には、かんぽ生命の顧客情報を元同僚が勤める保険代理店に流し、見返りに現金を受け取っていた熊本県の40代の局長も逮捕された。
愛媛県の郵便局では6月23日、抜き打ちの調査当日に局長が抜け出して死亡し、2億4000万円を着服していたことがのちに判明した。大阪府では、10人近い局長が会議費用の不正請求に絡み、飲食費などに使い込んでいた事案まで浮上している。
これらの事件はいずれも「旧特定郵便局」を舞台に、その局長たちによって引き起こされたものだ――。
国内最強の集票マシーン
旧特定郵便局は全国に約1万9000局あり、日本郵便が直営する約2万局の大部分を占める。明治初期、資金が乏しかった日本政府に代わり、地方の名士の私財提供によって作られた郵便局網がルーツ。小規模局が中心で、2007年の民営化で名称を変えたあとも、大型の旧普通郵便局とは区別して運用されている。
彼らの業務と密接に結びつくのが、約1万9000人の現役局長らで構成する任意団体の局長会だ。「全国郵便局長会」を頂点に、12の地方郵便局長会、約240の地区郵便局長会、約1600の部会で構成されるピラミッド組織。詳しくは後述するが、“国内最強の集票マシーン”という別の顔も持つ。その政治的な背景を武器に、郵政グループの経営にも強い影響力を持ち続けているとみられながら、詳細はこれまでベールに包まれていた。
頻発する局長犯罪のなかで、とくにグループ経営に強烈な打撃を与え、局長会の異質な体質も浮かぶ事件がある。福岡地裁が6月8日、局長会の有力幹部だった元郵便局長に懲役1年執行猶予3年の有罪判決を下した強要未遂事件だ。