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「(大物漫画家が)金輪際、描かないと言ったら…」新人漫画家の「セクハラ被害告発」に立ちはだかった“権力の壁”

漫画家・ペス山ポピーさんインタビュー#1

2021/10/02
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《温度調節》とは、ペス山さんが臨床心理士の信田さよ子さんと対談した際、信田さんから出てきた言葉だという。たとえば理不尽な目に遭っても、相手に抵抗するほうが疲れる。そういった場合、相手に合わせる形で自分が快適な状態を保てるよう、自然と自分自身をコントロールできる人=温度調節できる人が、実は世の中のマジョリティではないか、という指摘だ。

©ペス山ポピー(小学館)

《温度調節》せずに徹底的に怒る

「ただ、その場はパッと温度調節をしちゃうんだけども、後になって『体を触られて嫌だったのに、愛想笑いでやり過ごしちゃった…』みたいに、ずっと後悔してる人もいる。自分がやった温度調節に納得がいってない人もきっと多いと思うんです。

 私は漫画にまで描いて世の中にセクハラ被害を訴えましたが、こうやって声を上げる人はきっと少数派でしょう。東日本大震災でも性被害がたくさんあったはずだけど、最近ようやく告発する人たちが少しずつ出てきた、と信田先生が言っていて。そうして声を上げることができる“少数者”の背後には、被害を訴えることができない多数の被害者がいる。だから社会のためにも、“声を上げられる少数者”が必要だ、という話にすごく納得したんです。

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 それまでは、同じようにセクハラを受けてきた友だちに『ポピーちゃんが繊細すぎるんじゃない?』と言われたことで、自分が性被害を大げさに考えすぎているだけかもしれないと、ネガティブに捉えていました。でも信田先生の話を聞いて、自分は声を上げられるタイプの人間だったんだと、腑に落ちたんです」

 ペス山さんは、《温度調節》しない。だからこそセクハラに真正面から怒り、苦しみ続けてきた体験を漫画にした。その根っこは、スカートめくりをされて激昂した小学生の時から変わらない。自分が貶められたと感じたら、きちんと怒ってきた。