これまでに1000以上の話数が放映されてきたアニメ版『名探偵コナン』。原作者である青山剛昌氏の漫画作品が下敷きになったエピソードも数多くあるものの、それ以外の作品は、それぞれアニメ用に脚本が執筆されている。
これまでの作品とは被らない犯人のトリックは果たしてどのような流れでつくられているのか……。ここでは『辻真先のテレビアニメ道』(立東舎)の一部を抜粋。脚本執筆歴60余年の巨匠・辻真先氏による著書からアニメ制作時のエピソードを紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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ぼくの今日とアニメ
「好きな仕事で食べられて羨ましい」
と、よく言われる。
違いない。幼稚園に入る前からマンガが好きであったし、小学校に入った頃探偵小説にめぐり合った。汽車も好きだったから機会ある毎に乗り、従って旅も好きになり宿も温泉も好きだった。
はじめはそんな大それたつもりはなかったのに、趣味を文章に仕立てて職業にすることが出来た。ラッキーに違いない。
「なろう」と思わず「なっていた」のだから贅沢な奴である。
「あんたは運が良かっただけ」
亡妻にいつもそう言われた。
まったくだ——マンガの『響』を読んで申し訳なくなった。みんな死に物狂いでなろうとしているじゃないか。そんな根性なぞあるはずがないのに、ぼくが好きなものを書いて食っていられるのは、めぐり合った時代のおかげだ。
テレビが放映を開始したし、マンガは勃興期にあり、小説は若者向きを相手に書く人が皆無だったから無人の椅子に座り込めた。まるで空き巣の所業だ。
その代わりテレビでは評論家に笑われ、アニメでは教育委員会に叱られ、小説を書いても無視され続けたが、好きなものを書いてゼニがもらえたのだから、その程度のマイナスならお釣りが来る。
さまざまなファンの声
とは言うものの、逆風の中でファンのエールに出会うと、孤独が癒される思いで嬉しかった。
当然ファンと言っても一色ではない。ミステリを書き始めてしばらくして、中学生のアニメファンから手紙をもらったときは、目が点になった(今はこんな言い回しをしないのか)。
「辻さんと同じ名前で小説を書いている人がいます。抗議してやってください」
へっ?
『海のトリトン』ファンの女子高生が、大阪から上京して来て、新宿で切々と放映の延長を訴えられたときは、自分の無力と同時に研がれたファン気質を教えられた。
あの頃若かった人たちは、20年30年後の今、どこでどうしているのだろう。
継続は力なりと言う。
ぼくが知る一番古いアニメファンのグループは、『サイボーグ009』のファンクラブで、会誌「パラライザー」はこの6月にも最新号を出している。営々178号に到る。
ぼくの取り柄も、よく似ている。
とにかく続きました。