つまりは根本のアイディアがしっかりしていないと、推敲を重ねるうちにドラマが空中分解するだろう。
思いつき程度のことでは、ものの役に立たずに消えてしまうのだ。
ね、大変でしょう。
ぼくは話をでっち上げるのは好きだが、削り落とす作業には大汗をかく。小説なら原稿用紙800枚でも1冊に纏められるが、テレビアニメは原則24分しかないのだ。
“継続”がぼくを支えてくれた
もうひとつ、別な番組の話をしよう。
大半のホンは會川昇が書いたが、中島かずき、虚淵玄といった売り出しのライターも参加したから、メチャメチャに刺激を受けながら、ぼくも2本書かせてもらった(『コンクリート・レボルティオ 超人幻想』)。「果てしなき家族の果て」(第9話)、「デビラとデビロ」(第17話)である。ミステリではなかったので、ロジックよりファンタスティックな構想力が求められた。
空想・夢想・妄想のたぐいは好物だけれど、自分で自分の思いつきを採点しながらでないと、足元が危くてシナリオを固めることが出来ない。
ミステリと違った頭の使い方が必要でどこまでお役に立てたか心もとないが、書いた本人には楽しい経験となった。
どちらもぼくがミステリの世界にどっぷり漬かって、そろそろシナリオの書き方を忘れた頃の注文なので、やはり幸運だったと言うべきだ。
一時は小説ばかりの仕事になって、アニメと無縁になったけれど好きだから見続けていた。それでどうにか平成から令和にかけて、テレビアニメの尻尾にブラ下がることが出来た。細い糸が感覚的に昨日から今日へ繋いでくれたのだ。“継続”がぼくを下支えしたことになる。
しつこいと言った方がいいのか、諦めが悪いと言うべきか。そんなことは知らないが、空気を読まずに勝手なとき勝手な話を始めるのは、アスペルガーのせいでもあるのだろう。
「放映中のアニメで、なにがお好きですか」
先頃日本ミステリー文学大賞を頂戴したときのことだが、帝国ホテルで記者会見をした。そのとき集まった記者さんの中には、ぼくが長くアニメに関係していることをご承知なのか、質問を受けた。
「放映中のアニメで、なにがお好きですか」
「『ゾンビランドサガ』ですね」
そのアニメの魅力を縷々として説明したのだが、小説関係の記者さんたちにはピンと来なかったらしく、憮然とした風情で受け止められた。
でも直後にぼくをトイレに案内(なにせ前立腺肥大で近いのだ)してくれたホテルの若い人が、廊下でそっとささやいてくれた。
「今日のお話はとてもよくわかりましたよ」
帝国ホテルでゾンビの話をする爺は、さぞ珍奇な人種であったろう。
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