『名探偵コナン』との出会い
たいていの子どもは幼い日々、マンガが好きだった。今なら産声を上げたとたんに、テレビアニメが放映されている。子どもは動くものが好きだから、生まれながらにしてアニメも好きだろう。
それでも大部分の人たちは、マンガやアニメやテレビでは食えないことがわかるから、ほかの職業を選ぶ。あいにくぼくは曲がりなりにも食うことが出来、ほかの道へゆかずにすんだ。やはり運が良かったのだ。
キャリアが長いおかげで、運良く仕事の注文も続いた。
『名探偵コナン』の場合、ミステリ好きな於地紘仁監督が熱海に来訪して、彼の担当する『コナン』を書いてみないかと誘ってくれた。
つい先頃「毒を入れたのは誰」というタイトルで、新作をオンエアしたばかりだ(令和3年5月15日放映)。ちなみに『コナン』がどんなプロセスを踏んで脚本を決定稿にするのか、アニメ事情の片隅を書き留めておこう。
オリジナルを書くぼくの場合(ほかの脚本家の会議に同席したことはない)に限定して読んでいただきたい。
大幅に話が削ぎ落とされた後は、狙いがミエミエに
まずどんなジャンルの事件を書きたいか、である。
「えー、次は毒殺をやってみたいんだけど」
『コナン』は長寿番組だから、制作プロのTMSには文芸担当者のほかストーリーエディターと呼ばれるベテランがいる。
「毒殺はいいけど、『コナン』だともう30人くらい殺したと思うよ」
ちょっとめげたが、そんなことで引き下がっては『コナン』のホンは書けない。
「大丈夫、これまでとダブらないトリックだから」
自信はなくても、とにかくそう具申する。
「じゃあ、シノプシスを書いてみてよ」
で、書いた。
「登場人数が多すぎる」
減らした。
「舞台や小道具の設定がにぎやかすぎる」
削ったが、話の仕組みに必要な監視カメラは残した。
「このメカの説明、長すぎる」
熟慮の末、簡略にした。
「小五郎を眠らせたら、すぐ謎解きを始めた方がいい」
「あいよ」
構成をいじってみた。
実際のミーティングはこんな簡単なものではない。読売テレビの諏訪道彦プロデューサーとアニメの山本泰一郎監督は常連として、ほか数人のプロデューサーが同席、さまざまな意見が戦わされる。
「まだ長いんじゃない?」
さらに切り詰めた。
セリフを必要不可欠に絞る。
削るだけでは味も素っ気もなくなるから、磨き上げる作業も必要だ。
哀のような常連を出すなら、性格づけの矛盾があってはならない。
第1稿から決定稿にかけて、大幅に話が削ぎ落とされる。
言い換えれば、根っこに当たるアイディアの骨組みが露呈する。最初に考えたネタがよほどしっかりしたものでないと、ミステリの狙いがミエミエになる。コナンくんが謎解きするより先に、視聴者に話のゴールを予測されてはおしまいである。