あまりに軽すぎる犯行動機「患者が死んで…」
「最初は否認していましたが、2回目の任意聴取で罪を認めて逮捕となりました。『自分が担当の日に患者が死んで遺族に説明するのがいやだった』『20人くらいにやった』『感覚が麻痺していた』と堰を切ったように、次々と自供したようです」(同前)
本人が“完落ち”したものの、神奈川県警の困難な捜査は続いた。
「ひとりでも多くの被害者の殺人罪を認定したかった県警ですが、遺体が火葬され、血液も残っていないと本人がやったと供述しても立件はできません」(同前)
結局立件されたのは八巻さん、西川さん、2016年9月16日に死亡した興津朝江さん(当時78)の3人分の殺人罪に限られた。
「興津さんの遺体は火葬されていましたが、たまたま生前に採取した血液が残っていることが後になって判明し、ヂアミトールの混入が検査で確認できました。本人が言う『20人くらいにやった』という中にも興津さんは入っていた。このほかにも司法解剖でヂアミトールが血液から検出されている男性の遺体もあり、神奈川県警は横浜地検に殺人容疑で送検しました。
看護師の唇がただれ…関与認めた「不審な出来事」
しかし久保木被告は『この男性を狙った覚えがない』と話しており、20人には含まれていなかったんです。消毒液が体内に入っていくルートがどうしても解明できなかったため、横浜地検はこの男性への殺人罪を不起訴にせざるをえなくなりました」(同前)
本人が「20人殺った」と話しながらも、横浜地検が起訴したのは3人に対する殺人罪と、患者への投与が予定されていた点滴袋に消毒液を混入させた殺人予備罪だ。
事件発生当時、大口病院では看護師のエプロンが切り裂かれたり、看護師のペットボトルに異物が混入し、飲んだ看護師の唇がただれたりと不審な出来事も相次いでいた。これらの関与も久保木被告は認めている。
白衣の天使だったはずの看護師がなぜ、このような凶行に出たのか。大量「殺人」という重大行為を犯した動機について、久保木被告が捜査段階で供述しているのは「自分が担当の日に患者が死んで、遺族に説明をするのが嫌だった」というあまりに些細な理由だ。法廷で久保木被告が何を語るかに注目が集まっている。