「被害者の点滴袋が泡立っていた」
「八巻さんの点滴袋が泡立っており、何かが混入されている可能性があることから病院は警察に通報しました。捜査を進めると、遺体と点滴袋から消毒液『ヂアミトール』に含まれる界面活性剤の成分が検出され、八巻さんの死因は何者かにヂアミトールを摂取させられたことによる中毒死だったことが判明しました」(同前)
さらに2日前の9月18日、同じ階に入院中に亡くなった西川惣蔵さん(当時88)も中毒死と判明。県警は連続殺人事件として捜査本部を設置し捜査を開始した。
この2人の死をきっかけに、同年7月以降に約3ヶ月で48人もの患者が亡くなっていたことが判明し、報道各社の取材は過熱した。
「1日に5人以上亡くなっていた日や、ほぼ同時に2人の方が亡くなったケースもありました。2016年は7月に神奈川県相模原市の障害者施設『津久井やまゆり園』で植松聖死刑囚が入所者19人を殺害した大量殺人事件が発生しており、『神奈川は呪われている』と記者仲間同士で囁き合うほどでした」(同前)
久保木被告は取材陣に「犯人を許せない」
しかし、捜査は当初の見込み以上に難航した。内部の犯行ということは容易に推察されたが、院内には防犯カメラなどはなく、ヂアミトールは院内の誰でも容易に触れられる。点滴付近には多くの看護師の指紋がついており、被疑者を一人に絞り込むことはできない。
「しかし、久保木被告はかなり早い時期から、神奈川県警の捜査線上に浮上していました。我々もそれを察知し、病院を辞職して転々としていた本人を取材していました。しばらくマスコミにはふせられましたが、久保木被告の白衣からだけ、ヂアミトールが検出されていたんです。
ただ、日常の業務の中でも使用する消毒液だったことから、これだけでは否認されかねない。現に取材を受けた久保木被告は『疑われることに苛立つ』『犯人を許せない』など、本心を明かすことはありませんでしたから」同前
その後、西川さんの司法解剖の結果から、体内にヂアミトールが急速に行き渡っていたことが判明。点滴袋から体内へと続くチューブの接続部分のゴム栓から、注射針を使って混入されたと推測が立った。そして、ヂアミトールが行きわたる時間から逆算して導き出された犯行時刻に混入させるのは久保木被告以外には難しい、などと状況証拠が固められていった。そして事件発覚から1年9ヶ月以上が経った2018年6月末、ついに久保木被告の任意聴取が始まる。