「少し暗めの女性でした。当時の上司への不満も漏らしつつ、自らは事件に関係ないと静かな声で話し、『犯人を許せない』などと言ってのけた。少し化粧が濃い印象もありましたね。目の前にいるのは連続殺人犯だ、と気を引き締めていましたが、正直、そうは思えなかった」(全国紙事件担当記者)

 世間を震撼させた「大口病院点滴殺人事件」が発生した当時に取材を担当し、逮捕前の久保木愛弓被告(34)を取材していた記者はこう述懐した。

戦後の事件史に残る重大事件

 2016年9月に発覚した、横浜市神奈川区の旧大口病院で起きた点滴殺人事件。同年7月以降、4階の終末期病棟では入院していた48人もの患者が相次いで亡くなる異常事態となっていた。このうち3人に対する殺人などの罪に問われたのが元看護師、久保木被告だ。

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 そしてついに今年10月1日、久保木被告の裁判員裁判の初公判が横浜地裁で開かれる予定だ。

「事件発覚時から内部の犯行が疑われましたが、多くの遺体は火葬済みだったこともあり、捜査は難航しました。当初は久保木被告も否認し、逮捕までに時間がかかったので報道各社は被告に直接取材することができました。そこでも『自分は犯人ではない』と主張していましたが、後に神奈川県警の女性取調官の聴取に“完落ち”し、犯行を自供して逮捕。罪に問われた『殺人』は3件ですが、久保木被告は『20人くらいにやった』と供述しており、戦後の事件史に残る重大事件となりました」(同前)

旧大口病院 ©文藝春秋

「ホラー映画の撮影現場のような雰囲気」

 横浜市神奈川区のJR横浜線大口駅からほど近い場所にある旧大口病院。事件が起きるまで60年以上にわたって地域の医療に貢献してきたが、現在は院名が変わり臨時休業中だ。大口病院では高齢者に対する医療を中心に行われていた。事件が起きた4階は終末期専門の病棟だった。

「廊下の照明は薄暗く、ホラー映画の撮影現場のような雰囲気で設備も古かったそうです。他の病院が毛嫌いするような終末期の患者をしっかりと受け入れ、最期まで面倒を見るというのがウリの病院でした」(同前)

 認知症を患っている患者も多く、地域一帯の『最後の砦』として機能していた。

 一連の事件の端緒となったのは、2016年9月20日未明に起きた出来事だった。午前4時過ぎ、4階に入院していた八巻信雄さん(当時88)の心肺機能が低下し、まもなく死亡した。八巻さんは入院してから1週間足らず。あまりに急すぎたため“不審死”として扱われた。