2018年6月9日、走行中の東海道新幹線の車内で男女3人が襲われ、2名が重軽傷、1名の男性が死亡した。一審で殺人犯の小島一朗(犯行当時22歳)に言い渡された判決は「無期懲役」。その判決に対して、法廷内では万歳三唱をし、控訴することもなく、刑を受け入れた男の本心とは……。

 ここでは、写真家・ノンフィクションライターとして活躍するインベカヲリ☆氏が犯人の実情に迫った著書『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』(KADOKAWA)の一部を抜粋。裁判の顛末を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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指定席12号車18番D席

 無惨にも3人を殺傷したナタの鞘が、犯人の小島一朗から送られてきた。本来あるはずの刃渡り19.1センチのナタの刃部は、警察に没収され破棄されたから、手に入れることはできない。

 それは小島が判決を受け、刑務所に移送された後のことだった。一体どういうつもりなのだろう。人殺しに使われた凶器の一部など、私が欲しがるとでも思ったのだろうか。気味が悪いと思っていたが、しばらく眺めるうちに少し気持ちが変わってきた。

 直径20センチを超える長方形の鞘は、黒の合皮で覆われ、光に照らすとたくさんの指跡が浮かび上がる。証拠品として押収された後、小島に返され、さらに私のもとへ送る際に付着したのだろう。事件当日の指跡も、どこかに残っているのかもしれない。

 小島は凶行の直前、東京駅構内にある個室トイレでナタを取り出し、鞘の留め金を外して、そっとバッグにしまった。そして怪しまれることなく、東海道新幹線・東京発新大阪行きに乗り込んだ。彼の一生を左右した瞬間を、この鞘は見届けている。

写真はイメージです ©iStock.com

 事件から2年後の6月9日同時刻、私はこの鞘を持って、殺戮の起きた「のぞみ265号」に乗り込み、小島のいた指定席12号車18番D席に座ってみることにした。そうすれば、何かがわかるような気がした。

法廷で万歳三唱

「しゃーっす」

 2019年12月18日、判決当日、小島はいつものようにテンション高く挨拶すると、刑務官2人に挟まれて奥の入口から法廷に入ってきた。「失礼します」という意味なのだろう。その声に、既に着席している傍聴人約30名の目が、一斉に小島へと向けられる。小島の目もまた、近視用メガネの奥から、ねめまわすように傍聴席へと向けられた。

 彼の背丈は両脇に立つ刑務官より低い。髪は短く刈り込んだ坊主頭で、肉付きの良い丸顔に太い三角眉毛が目立つ。神経質そうな顔立ちではあるが、23歳にしてはどこか野球少年のような青臭さを残す。着ているグレーのスエット上下には、胸元に黒インキで「官」と書かれている。これは逮捕時に私服がボロボロだったため、警察から支給された古着だ。