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 腰ひもと手錠を解かれると、慣れた様子で刑務官に「ありがとごやす」とお礼を言い、従順な態度で被告人席に座った。雑な発音を除けば、声は大きく、すすんで囚人らしい振舞いをしているかのようだった。

 凶悪事件を対象とする裁判員裁判のため、審理は集中して約2週間で行われた。

 騒動が起きることを考慮してか、この日は傍聴席の通路に複数の警察官が配置され、後ろの壁面にも裁判所職員らしき数名の男性が立っている。これまでの公判にはない、厳戒態勢が敷かれていた。被害者の遺族が来ているのだろう。

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 正面には、中央に裁判長、左右に陪席裁判官がおり、両脇にそれぞれ3名ずつの裁判員と、後ろに予備裁判員2名が控えている。右手の検察官席に目をやると、被害者3名の弁護人がそれぞれ出席しており、かなりの大人数が並んで座っていた。

 一方、小島を担当する2人の国選弁護人は、判決だというのに1人は欠席。もう1人も、小島にはうんざりといった様子で、目も合わせようとしていない。これまでの公判で、関係の悪さをうかがわせる場面は多々あったが、ここへ来てピークに達しているようだ。

 張りつめた空気の中、皆無言で準備が整うのを待っている。

判決言い渡しの瞬間

 全員揃ったことを確認すると、裁判長の無機質な声が法廷に響いた。

「それでは開廷します。被告人は証言台の前に出てください」

 人々の視線が、小島に集中する。彼は表情を変えずに証言台の前へ移動し、「座ります」とわざわざ声を上げて椅子に座った。

「被告人、小島一朗に対する殺人未遂、殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件について、次のとおり判決を言い渡します」

「はい」

 小島は待ち構えていたように返事をした。

「主文、被告人を無期懲役に処する」

 その瞬間、傍聴席にいた報道陣たちがバタバタと一斉に廊下へ飛び出した。一刻も早く速報を流すためだ。大きな事件でよく見られる光景だが、おそらく小島は知らなかったのだろう。一瞬動揺を見せて振り返ったが、すぐに何事もなかったような表情に戻り、裁判長のほうへ向き直った。

 法廷には再び静寂が戻り、判決理由を述べる裁判長の声だけが響く。その間も、小島は平然とした態度で耳を傾けていた。厳戒態勢だった傍聴席からも、騒ぎが起きる気配はない。重々しい雰囲気の中、粛々と判決理由が語られ、そして終わった。

「この判決に不服があるときは、14日以内に控訴することができます。それではこれで終わります。被告人は席へ戻ってください」