昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

「ノーヒットでも絶対に大丈夫」神宮球場を支配した信じる力

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/10/09

あの日も菅野智之はマウンドで笑みを浮かべていた

 2018年10月14日、神宮球場で行われたCS第一ステージ第2戦。

 僕が人生で初めてノーヒットノーランを現地で目の当たりにしたあの日。

 山田哲人が7回に粘って粘ってフルカウントから外に逃げるスライダーを何とか見極めたあの四球がなければ、完全試合というさらなる屈辱を味わうところだったあの日。

 一塁側ベンチ近くの内野席で観戦していたのですが、球場全体がノーヒット・ノーランを意識しだした6回ぐらいから、巨人の菅野智之はマウンド上で笑っていました。

 7回からはスワローズの選手だけでなく我々ファンまでもが菅野の投球に、その自信に満ち溢れた笑みに次第に飲みこまれていく。

 打席に向かっていく選手の顔もこわばっていたように見えたし、勝てるというムードが一球ごとに失せていくあの【重い感じ】。

 達成されるべくして達成されたあのノーヒットノーランは、3年経った今も鮮明に脳裏に焼きついています。

 2021年10月7日。神宮球場での巨人戦。

 6回までノーヒットピッチングの菅野智之は、あの時と同じようにマウンド上で笑っていました。

 しかし、スワローズ側には3年前の「それ」は微塵もありませんでした。

 3年前のあの日と決定的に違うもの。

 それは、我々ファンが今季のスワローズのチーム力を信じる気持ちに満ち満ちていたことでした。

 投手陣の魂のこもったピッチング。

 打撃陣の最後まで諦めない粘り。

 ベースまでの全力疾走。

 ベンチからの選手を後押しする声かけ。

 チーム全員で1点を取るぞというムード。

 勝負の9月に入ってから、成長した頼もしい姿を何度も何度も見せてくれたスワローズ。

 我々ファンも、知らぬ間に成長させてもらっていたんです。

原樹理の気迫溢れるピッチング、宮本丈の鬼気迫る送りバント

 この日先発した原樹理の、毎回のようにランナーを背負いながらも気迫溢れるピッチング。

 6回裏、先頭サンタナが四球で出塁しバッターは西浦直亨。バントができずに0-2と追い込まれるも、必死にボールに食らいついてフルカウントから勝ち取った死球。

 好投していた原樹理の代打・宮本丈の、菅野の鋭く変化するスライダーに身体ごとぶつかっていくような気持ちのこもった送りバント。

「あんなエグいスライダーをよくバントできたな」という顔でベンチで出迎える嶋基宏。

 塩見泰隆、青木宣親が凡退し得点はできませんでしたが、皆で作ってくれたチャンスに応えようとする姿勢が打席から滲み出ていました。

 7回は今野龍太の圧巻の3者連続三振。

 8回も清水昇が三者凡退に退け仁王立ち。

 9回をマクガフが抑え、最後の攻撃。

 スワローズはいまだノーヒット。

 しかし、神宮球場に負の感情が渦巻く事は最後までありませんでした。

 ベンチ前にできた円陣。

 こんな苦しい試合でも、なんとかして勝ちにいく。

 ブルペンにいた選手も全員がベンチに戻り、打席に向かう選手に声をかけている姿。

 先頭、代打の神様・川端慎吾がビエイラの160キロの速球に三振を喫するも、バットを持ったまますぐさまベンチで応援に回る姿。

 この姿を僕は幾度となく見てきました。

 お陰で、三塁側の内野席から一塁側ベンチが見える席で野球を観るのが大好きになった。