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「あっ、これで本当にプロ野球選手ではなくなるんだな」

 今年ダメだったら終わりだと、毎年毎年が勝負だと思って積み重ねてきた9年間だった。

 夏以降、自分の中ではある程度腹を決めていたつもりではあったが、この電話で本当の意味で区切りがついた瞬間でもあった。

 表現が正しくないかもしれないが、「背中を押された」気分だった。

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 不思議と気持ちは晴れやかだった。好きで始めた野球から離れる寂しい気持ちはあったものの、肩の手術もあり、毎日のケアやトレーニングや研ぎ澄まされた緊張感みたいなものから解放されホッとした気持ちさえあった。

 当然、やり切ったというポジティブな感情があったし、自分なりにGMの立場としてチーム戦力と自分の力量を照らし合わせた時に、同じジャッジをしていたと思えたからだ。

 ロングリリーフというポジションはそこから勝ちパターンなり良いポジションに進むためのステップだとずっと思っていた。

 私はそこでチャンスがありながら何年もモノにできずに30代前半を迎えた。同じ力量の若手がいたら私ではなく若手選手が担っていくべきだと。素直にそう思えた。

 部屋に入ると高田GM(当時)を含めた3名の球団関係者の方が私を労ってくれた。とても感謝している。

「お疲れ様でした」

 この言葉と温かい握手でスッと気持ちが楽になった。

「あっ、これで本当にプロ野球選手ではなくなるんだな」と。

 寂しさより覚悟することができた。とても感謝をしている。

 初めてフラットな立場としてお話が出来たので、その時の会話は楽しかった記憶しかない。戦力外にするに至っての理由もこの際だから聞いてみたが、前述の私の考えと一致していたので尚更腑に落ちた。

 現役時の振り返りや今後についての話など、時には笑いも起こり想像していた「戦力外通告」の空間とは違った。

 そう、なにか、「始まりの合図」が鳴った気がしたのだ。

 当然、こんなスマートな去り際だけではないと思っている。

 よくこの時期になると戦力外通告の特番が放送されるが、人それぞれの感情がある。

 野球にすがることが悪いわけでもなく、ダメなことでも全くない。

 だから、どんな決断をしようとも、背中を押してあげて欲しい。応援してあげて欲しいと、心から思う。

©小杉陽太

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