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犠牲フライや進塁打は難しい…札幌ドームで“最低限の仕事”について考えた

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/10/17

 つい自分の仕事、古本屋のことを振り返ってしまいます。

 もちろんチャンスに最高の結果を残せるのが一番良いのだけれど、そう上手くは行かないのは野球も古本屋も一緒です。ところで古本屋にとっての「最低限の仕事」とは。

 古本屋の扱うもののなかには、絶版や二度と手に入らないようなものも多くあります。古本屋にとって最低限の仕事は、大切にされた本の繋がりを断たずにちゃんと次に受け継いでいくことなのかな、と思いました。そういう意味では、譲っていただいた本を汚損させてしまったりするのは「最低限」が出来なかったことになります。チャンスを潰してしまうようなもの。

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 ちゃんと繋げていくということで思い出すことがあります。独立開業したての駆け出しの頃、いろいろな本を売ってくださるお客様がいらっしゃいました。まだ売上も全然だった頃はおかげで随分と助かったものでした。あるとき、なかなかの希少本をお譲りいただきました。精巧な意匠の施された限定本のセットで、めったに全冊揃いでは見かけない、ネットで検索しても単品ですらあまり見かけない代物でした。

 そのセットをしばらく寝かせておいたのですが、あるとき入用が重なりこれらの本を売りに出すことに。それなりの値段で売れてひとまず安心したのですが、実は全冊セットのつもりが一部を分散して売ってしまったことに後で気づきました。最終的に全部売れたことは売れたのですが、せっかくの希少なコレクションを散逸させてしまったのです。ああ、やってもうた……。

 過日、それを譲ってくれたお客様から「あれはちゃんと売ってくれましたか?」と尋ねられたときの気恥ずかしさと後ろめたさといったら。確認不備と勘違いでやってしまったこととはいえ、ひどく後悔しました。ああ、せっかく自分に譲ってくださったのに、次に繋げるための「最低限の仕事」が出来なかったなぁと思ったものです。

 ホームランやタイムリーは無理としても、最低限、犠牲フライ、いやこの場合は繋ぎのバッティングで進塁打かな、ちゃんと仕事が出来るようになりたいと思ったものです。

3人に良い場面がもう一度訪れた巡り合わせ

 話は西武21回戦に戻ります。スコア3−1でリードの7回裏、無死2、3塁。打者は先ほど「最低限の仕事」が出来なかった野村。ストレートにどん詰まりだったあの打席のことも頭にあったのでしょう、髙橋光成の2球目のインコースのまっすぐを思い切り振り抜きます。

「うおおおお!」

 スイング一閃、打球は弾丸のようにレフトスタンドへ。しかし、惜しくも切れてファールとなりました。野村ちょっと悔しそう。私は相当悔しい。最低限どころか最高狙いか? でも良いぞ野村、思い切って行け!

 その思い切ったひと振りが効いたのかどうかはわかりません。いやきっと効いたのでしょう。5球目の落ちる球を引っ掛けた打球は名手源田の横を抜けてレフト前へタイムリーヒット! よっしゃー!!

 その日の野球の神様はファイターズに優しかったんです。同じようなチャンスをもう一度、今度は高濱にも与えてくれました。同じ7回裏です。スコアは4−1、一死2、3塁で回ってきました。今度こそせめて「最低限」を。

青空「ここで一点取れたらかなり大きい!」

 高濱もまたストレートを思い切って振り抜きました。これも「最低限」どころか打球は左中間を深々と割る2点タイムリー2ベースヒット! 彼もしっかりとスイングしましたね。本当に今シーズン、逞しく成長しました。塁上の高濱も、そして私達も思わずガッツポーズ。

 そこで終わらないんですよ。乗りかかった船とでもいうばかりに、野球の神様は清水にもリベンジをさせてくれたのでした。二死満塁、2−0からのストレートを思い切りしばきあげた打球はレフトスタンドへ!

私「なんだよ清水も最高かよ!」

トモノ「やったーーーー」

えのきど「清水の満塁ホームラン! これは超レアでしょ。ひゃはーひゃはー」

 希少本……いや希少な本塁打、「最低限」どころか「最高限」ですね。

清水優心グランドスラム! まさに希少本、稀覯本の味わいです。

 試合は何と10−2、大勝となりました。絶好のチャンスに「最低限」が出来なかった野村、高濱、清水。その3人に良い場面がもう一度訪れた巡り合わせ。やっぱり一度しくじっても次のチャンスがあるっていいですよね。気持ちが明るくなる。野球はチャンスのスポーツですね。

 何事も断ち切らず、繋げることで生きていくのだと思います。私も彼らのように、次のチャンスにはしっかり結果で応えたいと思っています。ですのでお持ちの方は希少本をどうぞお譲りください(?)。

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