「誤解を恐れずに言うなら、監督が2年ごとに当たり前の様に変わっていく現状でチームの幹を作ることは難しい。選手一人一人が新監督の方針のもと取り組んだ努力は、2年経ち指揮官が変わると否定されるサイクルを繰り返す。優勝争いをするチームとは、そこに差がある気がする」
「横浜ベイスターズ」だった時代、かつては沖縄で行われていた秋季キャンプで現役時代の木塚敦志投手コーチは、言葉を選びながら私にそう語りました。監督交代のタイミングにあたり新監督は不在で練習だけが行われていた頃でした。確かに10年以上前は首脳陣から、かつての方針を否定する言葉を耳にし、選手たちの努力目標も難しいなと感じていた覚えがあります。後に何人かの球団関係者からも同様の話を聞きましたのでチーム内で共有された課題だったのでしょう。
三浦監督に継承されている中畑さんの4年間とラミレスさんの5年間
時は流れて2021年10月17日、ベイスターズ対スワローズ戦前に球団誕生10周年記念のセレモニーが行われ監督を務めた中畑清さんがピッチャー、アレックス・ラミレスさんがバッターとなり始球式が行われました。
セレモニーの後、2人は会見場に。
中畑さんはグラウンドで「I LOVE YOKOHAMA!!」とマイクパフォーマンスをしたテンションそのままに「え、またユニフォーム着たいかって? 今着ているじゃない、だめ、それじゃ?」と質問に対して明るく勢い良く、サービス満点の返答。
ラミレスさんが「野球は勝つこともあれば負けることもある」と深みを持った言葉を英語で発する中には時々「防御率」などの日本語が混在。2か国語が混ざる翻訳は案外難易度が高いと思うのですが、監督時代から引き続き専属通訳担当の丸山剛史さんが分かりやすく整えてくれます。
今シーズンも前を向いてベイスターズの試合を実況してきました。三浦大輔監督に心からエールを送り続けました。そんな自分が中畑さんとラミレスさんに郷愁を覚えてしまうことには、少々後ろめたさが。
「試合展開に関わらず、変わらずポジティブな思いを放送に乗せてきたけど、さすがに今シーズンは負荷が大きかったのだろうか? いや、そんなはずはない」
「もう、自分もいい年なので感傷的に涙もろくなっているのかな?」
10分強の会見中、ずっと頭を巡っていました。
会見の質問は今シーズンのベイスターズや三浦監督への言葉へと及びます。
中畑さんは「三浦監督は今シーズンいい経験を積んだ。これからは期待しかない。でも野球は点を取り合うゲーム。戦い方の中に、こうやって勝つという三浦大輔のカラーがもっと出てもいいと思う」と。
ラミレスさんは「1年目は試行錯誤だったと思う。自分も選手個々の力を知り、勝つために必要なことを掴むには時間がかかった。いい野球をしても負ける時はある。攻撃力は高いレベルにあり、投打がかみ合えば持ち味を生かせる。これからは良い方向に進んでいくはず」と続けました。
セレモニーの直後で少々のリップサービスはあったのかもしれませんが、何とも込み上げてくる思いがありました。
中畑さんの4年間とラミレスさんの5年間、監督を担った時代はベイスターズの文化として三浦監督に継承されていると感じたのです。中畑さん以降は一定の期間監督を務めた上で、バトンを受けた監督がチームの長所を生かして新しい戦い方を上積みしようとする流れ。当然全て上手くいくことはないのですが、ファンや横浜スタジアムの爽快な空気まで含めた文化の幹が、やっと出来上がっていく思いでした。