三島由紀夫自決の日、ユーミンは……
ユーミンは、村井と出会う少し前、市ヶ谷の自衛隊駐屯地の総監室バルコニーにたつ三島由紀夫の姿を見ている。三島事件の日、後に夫となる松任谷正隆に連れられて、市ヶ谷にある「はっぴいえんど」の所属事務所にいたのだった。
《ドアを出ると、自衛隊のバルコニーが見えるのよね。そこに五~六人がいて、ノイズが聞こえてきて……》(中川右介『昭和45年11月25日-三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃』幻冬舎新書より孫引き)。今から死のうという三島由紀夫とデビュー前のユーミンの交錯、なんという瞬間であろう。
この中川の著書は、事件の日、様々な世界の著名人がどこでなにをし、どのようにして事件を知り、なにを思うかを時系列に組み上げたものである。
ここで印象深いのは、映画監督の鈴木則文の話だ。その日、ロケハンのために浜松に向かう車のラジオで事件を知る。はやくテレビを見たいと思い、サービスエリアに立ち寄るが、そこには三島由紀夫を見ようとテレビに群がる人だかりなどなかった。人々は、いつもと変わらぬように浜名湖を見ていた。「自分自身に直接響く問題以外に他者の運命と本当にかかわることが人間にとっていかに困難であるか」、そう述べる鈴木もまた、浜名湖を眺める人々同様に、ロケハンという日常に戻っていく。
ガンダムの安彦良和が語る「革命と日常」
革命と日常でいえば、今週の「新・家の履歴書」の漫画家・安彦良和にもこれに通じる話がある。安彦は弘前大学時代に学生運動の活動家となり、大学本部占拠事件で逮捕される。その後、手塚治虫の虫プロに入り、アニメーターとなるのであった。「アニメなんてあまり知らなかったけど、高校時代に描いた作品を持って行ったら」採用されたのだという。
そんなおり、あさま山荘事件が起きる。だからといって、革命の幻影に揺り動かされることはなく、「祭りの後には、日常という、面倒だけど大事なことを考えなければならないんです」とこの事件に高揚感を抱き浮かれる者たちに冷ややかでさえあった。
また「僕が最小限言えるのは、ある程度の問題や不満はあっても、平穏は尊いということです」と言う。職業をもち、家庭をもった安彦は、成熟していた。それは日常をもつ、ということなのだろう。