家族全員が容疑者
自宅で人が亡くなった場合、疑われるのはまず同居人であり、全員が容疑者として取り調べを受けた。家族全員の携帯電話が没収され、互いに連絡を取り合うことができなくなった。最も疑われていたのは真奈美で、第一発見者の兄も連日厳しい聴取を受けていた。
すべて正直に答えているが、「やっていない」「知らない」と言うと、警察官に「噓つくな!」と大声で怒鳴られ、机を叩かれた。
このとき真奈美は、他の家族も翼の死に関係しているのではないかと考えていた。父親は、翼と血が繫がっていないのだから、亡くなったとしても何も感じないのではないか。兄も心のどこかで翼の存在を疎ましく思っていたのかもしれない。裁判が結審するまで家族との面会は禁止されており、家族全員で自分を陥れたのかもしれないと思うようになっていた。
健一が必ず助けに来てくれると信じていたが……
裁判で健一は、真奈美が積極的に翼を虐待していたと主張していたが、それも健一の策略なのではないかと考えた。健一が早く解放されれば、必ず助けに来てくれると信じていたのだ。
刑務所に収監された真奈美は、この先、家族と会うつもりはなかった。どこの刑務所に収監されたのか、家族であっても知る権利はなく、手紙を出さなければわからない。ところが、敏子さんと父親は真奈美を捜し、面会に行った。そして徐々に真奈美は、健一に騙されていた事実に気がついていった。
「弟を助けられなかったことは、とても後悔しています。あのとき翼が犠牲にならなければ、他の家族も殺され、私も無期懲役や死刑になっていたかもしれません。そう考えれば、刑務所生活も仕方のないことだったと思うようになりました」
出所した真奈美は、母親の敏子さんと一緒に介護の仕事をするようになった。
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