「蚊も人も俺にとっては変わりない」「私の裁判はね、司法の暴走ですよ。魔女裁判です」。そう語るのは、とある“連続殺人犯”である。
“連続殺人犯”は、なぜ幾度も人を殺害したのか。数多の殺人事件を取材してきたノンフィクションライター・小野一光氏による『連続殺人犯』(文春文庫)から一部を抜粋し、“連続殺人犯”の足跡を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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CASE2 山地悠紀夫
大阪姉妹殺人事件
太田さん(『岡山市こころの健康センター』所長で医師。山地と約2年間、22回にわたって面接を重ねてきた)は山地と面接するなかで、彼は広汎性(こうはんせい)発達障害の一種であるアスペルガー症候群である可能性が高いとの診断を下していた。これは先天的なもので、症状としては知的障害がなく、普通に話していると問題があるとは思えないが、共感性に乏しく、感情ではなく理論でしか状況を理解できないという傾向を持つ。そのため、相手がどう感じているかということを忖度できずに、一方的に自分の意思を伝えるなど、コミュニケーションに影響を及ぼしてしまうことが多い。太田さんは続ける。
「彼は反省しないのではなく、できないのではないか、ということを感じました。この12月の面接では、最後にこれまでしてきた話を踏まえて『今ならどうする?』って尋ねたんですね。そうしたら『彼女を連れて逃げるか、それとも警察に相談するかな』という言葉が返ってきたんですよ。それで僕は、これから論理的に語りかけることを続けてみたら、なにか生まれるかもしれんなって思ったんです」
『いまでも母を殺したことは良かったって思える』
それ以降も、ほぼ月に1回のペースで山地との面接は続けられた。
「反省のことなんかを繰り返し、繰り返し、彼が理解できるように対話を続けていきました。で、それを繰り返していたのに、面接を始めてから8カ月後、平成14(02)年7月です。彼は『いまでも母を殺したことは良かったって思える』って……。ま、そんな感じでした」
苦笑を浮かべる。精神科医という職業柄、そのようなことは多々あるのかもしれないが、第三者から見れば、それは一進一退ということではなく、無限のループを想像させる。