「蚊も人も俺にとっては変わりない」「私の裁判はね、司法の暴走ですよ。魔女裁判です」。そう語るのは、とある“連続殺人犯”である。
“連続殺人犯”は、なぜ幾度も人を殺害したのか。数多の殺人事件を取材してきたノンフィクションライター・小野一光氏による『連続殺人犯』(文春文庫)から一部を抜粋し、“連続殺人犯”の足跡を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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CASE2 山地悠紀夫
大阪姉妹殺人事件
2005年11月17日、住所不定・無職の山地悠紀夫(22)が大阪市のマンションに住む坂田有希さん(仮名、当時27)と真美さん(仮名、当時19)を相次いで殺害した事件。全く面識のない姉妹を強姦しながらナイフで幾度となく刺し、死に至らしめた犯罪史上に残る凶悪事件。山地は16歳だった00年に母親を殺害しており、05年の事件後の取り調べでも「母親を殺したときのことが楽しくて、忘れられなかった」「死刑でいいです」と話していた。07年に死刑が確定、2年後の09年に25歳の若さで死刑執行された。
快楽殺人
「被告人を死刑に処する」
2006年12月13日、大阪地裁201号法廷で裁判長がそう告げると、チェックのシャツにベージュのズボン姿の男は、一瞬頰を強張らせた。しかしそれ以外はとくに目立った反応はなく、刑務官に挟まれて退廷する直前に口角を上げて微笑を浮かべた。
山地悠紀夫(ゆきお)、23歳。彼は05年11月17日未明、大阪府大阪市浪速(なにわ)区のマンション4階に住む坂田有希さんと真美さんの姉妹を惨殺した。山地が問われたのは、強盗殺人、強盗強姦、非現住建造物等放火など、6つの罪状に及ぶ。
犯行から18日後の12月5日に、現場からわずか1キロメートル先の路上で身柄を確保された山地は、自分の名前を呼びかけてきた刑事に「完全黙秘します」と反応した。逮捕後、建造物侵入は認めたが殺人について否認を続けた彼は、18日に殺人を認め、「人を殺すのが楽しかった」と供述して快楽殺人を主張。送検される車内では居並ぶ報道陣のカメラに向かって不敵な笑みを見せるなど、特異な言動で世間を騒がせた。
彼の犯行は、その端整で物静かな雰囲気の顔立ちに相反して、酸鼻(さんび)を極める残酷なものだった。