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《大阪姉妹殺人事件》なぜ山地悠紀夫に母親の愛は届かなかったのか「いまでも母を殺したことは良かったって思える」

『連続殺人犯』より#8

2021/09/06

source : 文春文庫

genre : ライフ, 読書, 社会

note

失意と落胆

「山地君と会ったのは去年(04年)の4月下旬が最後です。場所はこの事務所。向こうから電話があり、(少年院から)出てきたので挨拶したい、それから改めて自分のやった事件についての記録が読みたいということでした。やってきた彼は、30分以上かけて自分の調書だけを読んだのですが、とくに感想とかを口にすることはありませんでした。その後、夏の終わり頃に教えられていた彼の携帯電話に電話すると、『元気でやっている』と答え、生活にとくに変化はないとのことでした。ただ、それから気になってはいたのですが、電話をかけることはなく、今年(05年)の10月下旬か11月上旬頃に彼の携帯電話に電話すると、もう使用されていませんでした」

 その際、山地の再犯を知った内山さんは、傍(はた)から見ても明らかなほどに、失意と落胆のなかにいた。

 私は9年半ぶりに訪ねた事務所で、内山さんと山地とのかかわりについて、改めて話を聞かせて貰えないかと依頼したのだった。

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この子は普通の子と違う、慎重にいかないと

「最初は当番弁護士として2000年8月2日に山口署で接見しました。そのときは反発の気持ちが強かったんだと思います。こちらの目を見て冷静な口調で『弁護士は必要ありません。僕はどうなってもいいです』と言われ、選任を拒絶されました。感情を見せず落ち着き払った様子だったので、この子は普通の子と違う、慎重にいかないと大変だと思いました。その日、面会が終わる直前に私が『君自身はどうなってもいいと思っているかもしれないが、僕はどうなってもいいとは思っていない』と言うと、彼はすごく嫌そうな顔をして、勝手に席を立って面会室の外に出て行きました。それが初めて感情を露(あら)わにしたときだったと思います」

 次の日も内山さんは山地のもとを訪ねたが、「自分のプライバシーを根掘り葉掘り聞かれたくない」と彼は頑なに拒絶する。そこで内山さんは山地に手紙を出すことにした。手紙には、自分を守るために弁護人(付添人、以下同)をつけるという方法があること。弁護人をつけるのにおカネはかからないこと。弁護人との面会には立会人(警察官)がつかないので、他の人に聞かれたくないことも話せること。そこでの秘密は守られること、などの利点を挙げたうえで、もし弁護人をつけたいと思ったら、まわりの人にそう伝えて欲しいと書いたのだった。

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