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得になることしか言わない人は信じてはいけない

 内山さんが手紙を出して4日後、山地から封書で返事があった。〈お手紙を下さりありがとうございます〉との言葉で始まる手紙には、弁護人をつけないという気持ちには変わりがないことが綴(つづ)られ、〈信頼もしていない人に他人に聞かれて困ることや秘密などを話すことは出来ません。昔、ある人に言われ、得になることしか言わない人は信じてはいけないと、つまり貴方(あなた)がたは得になることしか言わないので、私は信じることができません〉と書かれていた。

 だが、この山地の“思い込み”による拒絶は、あることで簡単に方針転換された。内山さんは言う。

「家裁の調査官が『ルールとして、弁護人がつかないと審判が進まないんだよ』と説得したんです。そうしたら『規則ならしかたないですね』と、あっさり弁護人を受け入れたんです。それで選任されました」

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 ここにも「感情ではなく理論でしか状況を理解できない」アスペルガー症候群の傾向が垣間(かいま)見える。こうした経緯を経て、内山さんは付添人として、身柄を山口少年鑑別所に移された山地との面会を重ねた。

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母親に対する不平不満を強調

「最初のうちはまず付添人としての関係を作ろうと思い、ストレートに事件のことに入っていくのではなく、彼が興味を持っていたり関心のあることを探るため、本の差し入れをしたりしました。彼は『こんな字の大きい本は嫌だ』と言うなど、背伸びしている印象がありました」

 内山さんによれば、鑑別所での接見を続けるうちに、山地との間で徐々に会話が成立するようになっていったという。

「事件の動機については、母親が勝手に彼女に無言電話をかけたのが大きいようです。ほかにも公共料金の滞納によってガスや水道が止められて大変だったということや、その足しにしようと新聞配達のバイトを始めたけど、母親にいくら借金のことを聞いても説明してくれない。自分を子供扱いするといった不満が積もっていたようです。彼はいつも母親に対する不平不満を強調していました。逆に父親に対しては肯定評価しかないんです。よく遊んでくれたという話や、父親が死んだときのまわりの態度が不満で、許せないだとか……」

 山地は少年審判の場においても、謝罪の言葉を口にすることはなかった。内山さんは嘆息する。