「ショック受けると思うけど、大丈夫?」と前置きして
健一は、兄と父とよく晩酌をしていた。
ある日、健一は大事な話があると言って、真奈美と翼を呼び出した。
「昨晩もお父さんとお兄さんと飲んでてね、お父さんが言ってたことがどうしてもひっかかって……」
いつになく神妙な面持ちの健一を、真奈美は急かした。
「何だって?」
「でも、知らないほうが……」
「話して、隠し事はなしって約束でしょ」
「ショック受けると思うけど、大丈夫?」真奈美は頷いた。
「翼は?」
「翼も知りたいよね?」
真奈美がそう言うと、翼も頷いた。
「お父さんには絶対言うなって口止めされたんだけど、真奈美も翼も、お父さんの子どもじゃないんだ」
あまりのショックに、真奈美と翼はその場にへたり込んだ。もちろん、真っ赤な噓である。
「私たちは誰の子どもなの?」
「若い頃のお母さんは浮気癖があって、相手は行きずりの男だったみたいだよ」
「私と翼の父親も違うの?」
「そう」
「そんな……」
「お母さんに言うなよ。お父さんに口止めされてるんだから」
真奈美は怒りが込み上げていた。
家族をあおって敏子さんを孤立させ
「翼、行こう」
真奈美は翼の手を引いて、台所にいる母親のもとへ向かった。
「ふざけんな!クソババア出ていけ!」
真奈美は敏子に向かって暴言を吐きながら、食器を投げつけた。翼も真奈美と同じように敏子を攻撃した。
「絶対許せない!」
真奈美と翼は、毎日のように敏子に暴力を振るい、暴言を吐くようになった。
健一は、父と兄にも真奈美と翼は父の子ではないかもしれないという疑惑を植えつけた。
真奈美と翼がなぜ急にそんな態度を取るのか、身に覚えのない敏子は戸惑った。健一が何か吹き込んでいるに違いなかったが、家族は誰も健一を疑わず、敏子は家の中で徐々に孤立を深めていった。健一は父親に、自分と出会う前の真奈美は風俗店で働き、アダルトビデオにも出演したと噓をついた。そして、「自分が話をつければ動画が流出しないよう200万で買い取ることができる」などと言っては、父親から大金を騙し取っていた。世間知らずの父親は健一の話を信じ、真奈美のような娘と結婚してくれるのは健一だけだと健一を頼るようになっていた。