子どもを遺棄した母親が逮捕されるニュースは度々世間を賑わせる。こうした事件の多くは、妊婦の社会的孤立に要因が見られるものの、一方で、家族と同居していながらにして、同様の事件が起きてしまうケースもある。

 加害者家族の支援を行う団体「World Open Heart」で理事長を務める阿部恭子氏は、著書『家族間殺人』(幻冬舎新書)のなかで、そうした乳児遺棄の事例を検証している。ここでは、同書の一部を抜粋。加害者家族の証言をもとに、事件の背景につ迫る。(全2回の2回目/前編を読む

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軽度の知的障害があっても「言いつけはきちんと守るいい子」

田中絵美(仮名・19歳):公衆トイレで出産、自宅近くの山林に遺棄

「妹がこんな事件を起こしてしまって……、両親は地域でさまざまな活動に参加していましたが、すべての役職を辞退して自宅に引きこもっています」

 北陸地方に住む会社員の田中絵美(仮名・19歳)は、勤務先近くの公衆トイレで出産し、嬰児の遺体を自宅近くの山林に遺棄して逮捕された。

 絵美には軽度の知的障害があって学校の成績は常に最下位だったが、特に問題を起こす子どもではなく、中学卒業後は親族が経営する会社に勤務していた。

 絵美の姉である真美(仮名・25歳)は、幼い頃から成績優秀で、地元の公立ではなく私立の学校に通い、有名大学を卒業していた。真美は、幼い頃から塾や習い事で忙しく、妹と遊んだ記憶はないという。妹について、

「親の言いつけは、きちんと守る子でした。両親はとても厳しいので、露出の多い服装や厚化粧はせず、早めに帰宅して家事手伝いをしていたと思います」

 両親や姉にとって、家庭での絵美は「いい子」だった。

©️iStock.com

地域の人々は「無防備で、誰にでもついていく」

 ところが、地域の人々の印象は違う。

「あの子は小さいときからいつも男の子と一緒。誰にでもついていくという噂でした」

 絵美と同じ中学に通った息子の母親は、絵美が起こした事件を聞いて、さほど驚かなかったという。

「絵美ちゃんは無防備でね、息子にはできるだけ関わらないようにって注意したこともあったんです」