体長はいずれも0.2~0.4ミリ、その姿を肉眼で捉えることはできないが、顕微鏡下では棒状の体の前方に四対八本の短い脚が生えた姿が確認できる。
あえて可愛らしいものでたとえれば、そのフォルムは「ムーミン・シリーズ」で知られるフィンランドの作家トーベ・ヤンソンが創造した架空の生き物「ニョロニョロ」に近い。
ニキビダニは世界の約70パーセントの人間に寄生しており、その数は1人につき約200万匹ともいわれている。おそらく、あなたの顔の毛穴、その1つひとつにも、この「あまり可愛くないニョロニョロ」はびっしりと棲みついているのだ。
人間にとって「ありがたい」一面も
幸いなことに、この寄生虫は宿主にほとんど害をなさない。
名前に「ニキビ」とついてはいるが、必ずしもニキビの原因になるというわけではなく、健康な顔の皮ふのあらゆる場所にいる。なんらかの理由で免疫力が低下していると増殖し、赤みや痒(かゆ)みをもたらすことはあるが、基本的には死んだ細胞や皮脂を食べているだけだ。
逆に、余分な細胞や皮脂を分解してくれるため、私たちの顔の皮ふのバランスを正常に保つのに役立っているともいえる。
ニキビダニは頰ずりなどでヒトからヒトへたやすく移動する。産まれたばかりの新生児には寄生していないが、多くの場合、親とふれ合ったときに、赤ちゃんはニキビダニを受け取り、寄生を受ける。今あなたの顔で蠢(うごめ)いているニキビダニも、きっとあなたのお父さんお母さんが「かわいいね……」とくっつけた、その頰から移ってきたダニの子孫なのだ。
そうやって、ニキビダニは、ヒトに寄り添い、ともに進化の道のりを歩んできた。そのため、世界各地のニキビダニのDNAを比較することで、人類の系統がたどれるとされている。
もしも彼らの声が聞こえたら……
この寄生虫は、私たちの肉眼では見えないし、這いまわる気配を感じることもない。そこにいても痒くはない。鳴き声も聞こえない。健康な人間にとってはなんの害もないから、その存在を意識することはまずない。これは、ヒトとニキビダニの双方にとって幸いだった。
もし、実際に数百万匹の小さな虫が四六時中顔を這いまわる感覚が私たちにあり、顔の細胞を貪る気配がし、痒みが起こり、キーキーという大合唱が聞こえたら――。
ヒトはとても正気ではいられず、なんとしてもこの虫たちを顔から排除しようとしたはずだ。