人間の小腸に寄生することで知られる「サナダムシ」。かつて、サナダムシの幼虫を呑み込むことで減量する「サナダムシ・ダイエット」が話題になったことがあったが、本当に効果があるものなのか? サイエンスライターの大谷智通氏による新刊『眠れなくなるほどキモい生き物』(集英社インターナショナル、イラスト:猫将軍)の一部を抜粋。「サナダムシを寄生させて痩せた」とまことしやかに語られる20世紀最高のソプラノ歌手、マリア・カラスのエピソードを紹介する。
「サナダムシ」とはどんな虫か?
「サナダムシ」の名は誰しもが一度は耳にしたことがあるだろう。扁形動物門条虫綱に属する寄生虫の総称である。ヒトの小腸に寄生して10メートルもの長さに達する怪物のような種もいることから、古くから知られている寄生虫のグループだ。
サナダムシという俗称は成虫の形が桐箱や武具などに用いられる平たい織紐・真田紐に似ていることに由来しており、テープのようでもあるから英語ではtapeworm(テープワーム)と呼ばれる。
この寄生虫には、目も口も消化管もない。脳すらもたない。栄養は宿主の腸内で体表から吸収する。その体は頭節とそれに続く平たい片節からできていて、種によっては片節が数千も連なることがある。その一つひとつの片節に雄と雌両方の生殖器官がある。
同じ片節内で、異なる片節で、または複数の虫の間で、来る日も来る日も生殖を行い、多い種では虫1匹が1日に100万個もの卵を産み出す。この寄生虫の本体は、いわば生殖器と卵のつまった平たい袋のようなものだ。
ヒトを終宿主とするサナダムシのなかには、驚くほどの長さになるものがいる。代表的なのは、日本海裂頭条虫、有鉤条虫、無鉤条虫の3種だ。
日本海裂頭条虫は、頭部の吸溝でヒトの小腸内に固着し、体長10メートル以上にもなる寄生虫界最大級の虫である。
このサナダムシは海産の甲殻類(詳しいことはよくわかっていない)を第一中間宿主、サケ・マス類を第二中間宿主、ヒトやヒグマを終宿主としている。
虫が大きいので下痢や腹痛などの症状が起きることもあるが、組織にもぐり込んだりはしないので無症状の場合もあり、肛門からきしめんのような虫体が自然に垂れ下がってきて初めて寄生に気づくことも多い。
有鉤条虫は頭部に4つの吸盤と引き込み可能な多数の鉤を備えたサナダムシで、ブタを中間宿主とし、その生肉を食べたヒトに寄生して3メートルほどに育つ。