1ページ目から読む
3/3ページ目

 1953年、彼女はホテルのトイレでサナダムシの体の一部を排出し、半狂乱になってバッティスタを呼びつけたというのだ。

 そして、彼女が瘦せ始めたのは、医師の処方した薬でこのサナダムシを体内から駆虫してからのことだったという。駆虫後の1週間で彼女の体重は3キロ落ち、その後も落ち続け、数ヵ月で20キロ近く瘦せた。

なぜ彼女は減量できたのか?

 医師と夫婦は、この変化はサナダムシの駆虫によって起こったものだと結論づけている。

ADVERTISEMENT

 つまり、体内に寄生する怪物がいなくなったことで、彼女は心身ともに健康になり(肥満はおそらく精神的な問題からきていた)、結果として瘦せて美貌を取り戻したということになる。

 真相は、都市伝説とは正反対なのである。彼女はしばしば生肉を食べていたそうなので、寄生していたのは有鉤条虫か無鉤条虫だったのだろう。

 高度に進化した寄生虫の多くは、宿主にあまり大きな害を与えない。宿主に害を与えることは、自らの生存の可能性を減らしてしまうからだ。

 とはいえ、寄生虫は人体にとっては明らかな異物であり、いくつかのサナダムシは数ある寄生虫のなかでも規格外の長さ・容積であるから、まったくの無害であるとはとてもいえない。

 世界でも珍しい、寄生虫に特化した研究博物館である目黒寄生虫館には、全長8.8メートル、約3000の片節が連なった日本海裂頭条虫の標本が展示されている。機会があれば、その怪物じみた長さをぜひ自らの目で確認してみてほしい。もしも、自分の腸にこれだけの長さの生き物が居座っていたら――。

 サナダムシ・ダイエットは危険である。絶対に行うべきではない。サナダムシに寄生されてかりに体重が減ったとしても、それは瘦せたのではなくやつれたのであり、完璧で美しい身体からは遠ざかっているのだ。

眠れなくなるほどキモい生き物

大谷 智通 ,猫将軍

集英社インターナショナル

2021年8月26日 発売