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 このサナダムシも成虫がおとなしく寄生しているだけならヒトに大きな害は与えない。しかし、腸内でサナダムシの片節の一部が壊れると、中の卵からふ化した幼虫が全身にまわり、行き着いた先の組織で楕円形の囊虫(のうちゅう)に発育することがある。

 この囊虫が脳に寄生した場合には、脳を圧迫して、神経囊虫症という痙攣(けいれん)発作や麻痺、意識障害といった重い症状が現れ、最悪、死に至ることもある。

有鉤条虫(イラスト:猫将軍)

 無鉤条虫は頭部に4つの吸盤をもつが有鉤条虫のような鉤はなく、「カギナシサナダ」とも呼ばれる。

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 こちらはウシを中間宿主とし、生焼けの牛肉やホルモンを食べることで終宿主のヒトに寄生し、その体内で6メートルほどに育つ。

 このサナダムシも症状は軽度の下痢と腹痛くらいだが、便といっしょに活発に蠢(うごめ)く片節が排出されるようになる。自分の体から毎日のように「蠢くマカロニ」が出てくるのだから、精神的なダメージは大きいだろう。

「サナダムシ・ダイエット」は実現可能か?

 これだけの大きさの生物を体内に飼っていれば、栄養をたくさん横取りしてくれて楽に瘦せられるのではないか――そう考える一部の人々は、サナダムシの寄生がダイエットに有効かもしれないと期待を寄せている。

 そんなサナダムシ・ダイエットの成功例としてまことしやかに語られるのが、あるオペラ歌手にまつわる都市伝説だ。

 その美貌と類いまれなる美声から20世紀最高のソプラノ歌手ともいわれるマリア・カラス。

 1951年12月に初めてスカラ座から呼ばれたとき、体重95キロだった彼女は、その3年後のシーズン・オープニングの時には、65キロになっていたという。実に、30キロもの減量である。

 背の曲がったみっともない鯨のような巨軀だったマリアを蝶のようにエレガントな女性へと変身させたものこそ、スイス人の医師から処方された「瘦せ薬」ことサナダムシの幼虫であった――という噂。

 しかし、これは「楽をして瘦せたい」と願う現代人の願望が産んだ俗説である。マリア・カラスの元夫ジョヴァンニ・バッティスタ・メネギーニの回顧録によれば、彼女はたしかにサナダムシに寄生されていた。