「ごめん、きれいごとにしか聞こえないわ」

 2021年10月、清原果耶が主演している朝の連続テレビ小説『おかえりモネ』は半年間の放送のフィナーレを迎える。そこに向かう直前の9月29日の放送で、永瀬廉が演じる気仙沼の漁師、及川亮は、「地元のために働きたい」と帰郷した主人公に向かって冒頭のセリフをつぶやく。

 それは優れた脚本家である安達奈緒子による、朝の連続テレビ小説という枠組みに対する批評であり、自分自身に突きつけた刃のようなセリフだった。

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 田舎で生まれた女の子が夢を抱いて上京し、そして夢を叶えて帰郷する。そんな朝ドラのスタンダードな定型の中に被災地の現実があっさりと組み込めるはずがない、という作り手の誠意がそのセリフには込められていたと思う。

朝の連続テレビ小説『おかえりモネ』主演の清原果耶 ©️AFLO

SNSが「#俺たちの菅波」で盛り上がる一方で

 SNSで最も人気を集めた『おかえりモネ』の登場人物は、主人公と物語を伴走するハンサムな青年医師、菅波だった。しかし、脚本の安達奈緒子は『おかえりモネ』という物語を、主人公と菅波のラブストーリーに重心を置いて書いてはいない。たとえ舞台が東京に移った後も、最終的に帰るべき物語の中心は被災地でもがき苦しむ亮や、「正しいけど冷たいよ」という言葉を主人公に向ける妹の未知たちが暮らす被災地にある。

 視聴者たちがSNSで「俺たちの菅波」というハッシュタグで楽しく盛り上がっている時も、主演の清原果耶はたぶん、安達奈緒子の脚本の意図を理解していたはずである。

坂口健太郎

 まるで鍵穴と一対に作られた鍵のように、同じく被災地の宮城県を舞台にし、同じく清原果耶が出演する映画『護られなかった者たちへ』が10月1日に公開された。

 コロナ禍で撮影が延期されたこの映画は、本来ならこのタイミングでの公開ではなかったのかもしれない。だが全世界の映画界であらゆるスケジュールを狂わせた新型感染症は、結果的に『おかえりモネ』の最後の月と『護られなかった者たちへ』の最初の月を同じ2021年10月にピタリと合わせることになった。

 そして、ともに優れた作り手が別々の場所で生み出した2つの作品は、まるで最初からそう計画されていたように、宮城という被災地を正反対の方向から描き出している。