文春オンライン

「いつになればマスクしなくていい時期なのか」問題について

2021/10/15
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 そして何より、一連のコロナ感染症の拡大によって、実は私たちは相当の量の「他人の吐いた息に含まれたあれこれ」を無防備に吸い込んでいたことが明らかになったと思うんです。電車で居合わせた皆さんもホテルのロビーでパパ活に精を出す成金のおっさんも、ルノアールの片隅でマルチ商法の営業に励んでるあいつらも、お互い近いところで息を吐き合って、お互いの持つ体内の細菌やウイルスを日々刻々と吸い込みながら生活していたってことですよね、コロナ前は。

 それでも体内の免疫系が頑張って具合が悪くなるのを防いでくれた。ありがとう、ありがとう免疫系。病気にならなくても精神的に具合が悪くなりそうな相手が近くにいたかもしれませんが。

都市生活における人間の尊厳

 そもそも、女性が男性を評価する重要項目に「清潔さ」というパラメータがあり、これが日常的な手指の消毒で、みなある程度等しく綺麗になったのです。コロナがこの世にある限り、実は非モテに春が来る機会も増えるんじゃないかと思うわけですよ。しかし現実にはマスクのおかげで昼に食べたラーメンの香りがマスクの中に充満し、嗅覚がマヒするほど臭いニンニク感を満喫してセルフ不快感を享受することになるのですが。

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 しかし手を洗ってマスクをしていれば、存在不要と見なされがちな小太りの中年男性にも人権が回復することがある程度判明したいま、おっさんは一生マスクしてろと思われてるんでしょうか。半分がマスクで隠れて、何が入ってるか分からない吐息がマスクでろ過されているから許される存在。鼻出しマスクのおっさんの顔面に注がれる嫌そうな視線を感じるにつけ、都市生活における人間の尊厳とは何なのかを毎度思い知らされます。

 それでも、マスク着用に抵抗のなかった日本人が、諸外国よりも感染の拡大を防ぐことができたというのは大事なことだったと思います。

コロナウイルスが教えてくれたこと

 人混みの中で、満員電車で、クソ詰め込まれた役所の会議室で、実は私たちはもの凄く不潔な環境で日常を送っていたことが感染症によって知らしめられました。実は、私たちはそもそもたいして清潔な人生を送っていなかったのだ。見た目の清潔さに騙されて「彼はイケメンだし清潔感がある」と誤認した女性のいかに多かったことか。人は外見が9割なんですよ。非イケメンやおっさんはマスクで顔を隠しとけってことですか。

 実際にはこまめに手洗いし、スマホもアルコールで拭くオタクのほうが、感染症の観点からははるかに綺麗だったのだ。そんな簡単な事実すら気づかない日常を私たちが送っていたことを、コロナウイルスは教えてくれたのです。