繰り返すが、恋愛ものというと、俳優の素の瑞々しさをキラキラと提供するものが多いが、新鋭の時代を超えて様々な仕事を経験した上でもう一度、恋愛ものをやることで一歩進んだ深みのある恋愛ものができる。坂口健太郎のセカンドブレイクはまさにそれだった。
恋愛もの=若手の登竜門というイメージがあり、実力を積み重ねてきた俳優が何もわざわざやるものではないように思うことが筆者にはあるのだが、実はそうでもなく、恋愛の機微とは演技巧者だからこそ演じ甲斐のある仕事なのではないだろうか。
「恋愛もの」でのセカンドブレイクは他にも……
恋愛ものでセカンドブレイクした最たる例として挙げられるのが、佐藤健である。「仮面ライダー」出身で、どちらかというとやんちゃなアクションのあるような作品に出て、幕末時代漫画の実写化『るろうに剣心』シリーズで頂点を極めた。
その後、朝ドラ『半分、青い。』(18年)でヒロイン(永野芽郁)の相手役を演じた。終盤、ヒロインと朝方、毛布にくるまれてキスするシーンはあまりにも絵になり伝説の域に。
その後、火曜ドラマ『恋はつづくよどこまでも』(20年、以下『恋つづ』)ではヒロイン(上白石萌音)に対して壁ドン、顎クイ、バックハグ……と恋愛ドラマの基本は一通り抑えつつ、応用技も次々繰り出し最初から最後まで絵になる恋愛シチュエーションを演じ続けることで、『恋つづ』ブームを起こした佐藤。
アクションの決めを恋愛の決めに置き換えたかのような佐藤健の仕留める瞬間の演技は1分の隙もない。これもまた、彼のこれまでの鍛錬の結晶であろう。
向井理、綾野剛の場合も……
恋愛ものでセカンドブレイクしているもうひとりは向井理である。朝ドラ『ゲゲゲの女房』(10年)でブレイクし “イケメン”ブームの先頭を走ってきた。スマートで知的な印象の彼が『神の舌を持つ男』(16年)で今までのイメージを変えるような個性的な役を演じたり、舞台に挑戦したりして、力を蓄えた後、『着飾る恋には理由があって』(21年)で恋の本命ではなく当て馬的な人物を演じ、本命を凌駕しそうなほどの圧倒的な魅力によって、ヒロインはどっちを選ぶの?という恋愛ドラマのスリルを盛り上げる立役者となった。
イケメン向井理健在なり。これが当人の望んでいる評価なのかは別として、セカンドブレイクとは本人の資質を世間に定着させるためにも重要なフェーズなのである。
綾野剛も今年、恋愛もの『恋はDeepに』(以下『恋ぷに』)に出演した。主演映画『ヤクザと家族 The Family』(21年)や今期のドラマ『アバランチ』などいまや性格俳優の印象すらある綾野剛だが、ファーストブレイクは朝ドラ『カーネーション』(11年)。ヒロイン(尾野真千子)と想いを寄せ合う役・周防役は当人に妻子がある設定で、いわゆる不倫だったため賛否両論を呼びながら、綾野剛の強烈な色気に抗えない視聴者が続出した。
その後の綾野は映画『日本で一番悪い奴ら』(16年)の道を外れた警官や『パンク侍、斬られて候』(18年)の倫理観に欠けた人物など、褒められた生き方ではない人物を迫真で演じていく。その一方で、『恋ぷに』ではじつにやさしい表情でヒロイン(石原さとみ)を思いやる演技をするからそのギャップに驚かされる。