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集中力を養う方法論「ハンマロビクス」

「現代は数字や客観的な事実だけを偏重して自分自身の感覚を信じることができない傾向があります。アスリートも栄養学の先生にデータをもらって『これとこれを食べなさい』と言われるままにしているだけではよくない。訓練さえすれば自分の感覚で「いまはあれが食べたい」「こういうときは何を食べるべきだ」ということを訓練とともに的確に察知できるようになるはずです。この感覚と数字などの客観的評価の両方のバランスが大事だと思います。人間にはロジカルに考える大脳新皮質と感覚をつかさどる辺縁系の両方があって、そのバランスが常に大切です」

どれほどの力をこめようと、意識上、腕力だけのパンチと、全身を使って繰り出すパンチとでは、まったく威力が違う。訓練で全身の力を集中できるようになると、限界を超えた力を生み出す。©三宅史郎/文藝春秋

 41歳まで現役を続けた室伏さんにとって、競技人生の終盤は、年齢的な課題とどう向き合うかが重要なテーマだった。

「若いときと同じようなトレーニングを続けてしまうとケガにつながる危険があるので、量より質を重視した取り組みに変える必要がありました。私の座右の銘は『目的と目標を定めて最短の軌道を描け』という軍事学者のクラウゼヴィッツやリデル・ハートの考えを取り入れたものですが、一切の無駄を省いて最適ルートで目標に到達するということ。そのためには集中力が大事なのです。さらにそのためにあえて『集中しなければできないトレーニング』を考えました。紹介した「新聞紙を片手で丸める」エクササイズも、その1つです。簡単に見えますが、そうはいかない。たった1枚の新聞紙を相手に、毎回違う力や工夫をしなくては握りこむことができないのです。

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 ほかにも、単純な反復運動ではなく、毎回、変化のある運動。身体のあらゆる感覚を働かせて行う運動を考案してきました。こうした一連のトレーニングによって、まだ使われていない自分の能力を引き出すことにつながり、ケガを防ぎ、毎回、新鮮で意欲的にチャレンジできる。つまり飽きないで集中して行うことができるというわけです」

 その方法論を室伏さんは「ハンマロビクス」と名付けている。

「どうも集中できない」という場合、実はその取り組みの質に問題があることがある。質がよくてチャレンジングな取り組みに変えれば、集中もできるし成果も上がる。それはスポーツも仕事も勉強も同じだということを室伏さんの言葉は気づかせてくれる。

むろふし こうじ/1974年生まれ。東京医科歯科大学教授。博士。元男子ハンマー投げ選手。自己最高記録は2003年6月、プラハ国際で出した84メートル86。シドニー、アテネ(金メダル)、北京、ロンドン・オリンピックに出場。

ゾーンの入り方 (集英社新書)

室伏 広治(著)

集英社
2017年10月17日 発売

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